研究会アーカイブ「鈴木健介|指圧師のための操体法」

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神奈川県指圧師会 令和八年一月 研究会報告

「指圧師のための「操体法」講座」

令和8年1月18日(日)、神奈川県指圧師会の研究会として、アミケン指圧院(東京都渋谷区)院長・鈴木健介先生による「指圧師のための操体法講座」が開催されました。

今回の講座の目標は、①操体法の理念と臨床での使い方を学ぶこと、②指圧と操体法を“補い合う関係”として体感すること、③日々の指圧施術の効果をさらに高めること、の三点でした。 

操体法は、仙台の医師・橋本敬三(1897–1993)先生が体系化した方法で、「骨格や姿勢」と「心」の調和を大切にしながら、健康的でしなやかな身体づくりを目指します。講義では、操体法が国内外で注目され、海外の指圧師にも支持されていることが紹介されました。 

1. 操体法のいちばん大事な考え方は「気持ちよく動く」こと

操体法の入口は、びっくりするくらいシンプルです。鈴木先生が繰り返し強調されたのは、「気持ちのいい動きは体にいい」という考え方でした。

無理に“正しいフォーム”を作るのではありません。痛みや不快感を避けて、身体が「こっちが楽」「こっちが気持ちいい」と感じる方向(快方向)へ、ゆっくり動いてもらいます。すると、全身のバランスが自発的に整いやすくなる、という発想です。

ここが指圧ととても面白い対比になります。指圧は、術者が「触れる」「圧を加える」ことで反応を引き出します。一方、操体は受け手が主体で、「自分の感覚で動きを選ぶ」ことが中心です。つまり、指圧が“触れる技術”だとすると、操体は“感じて動く技術”と言えます。どちらが上という話ではなく、役割が違うからこそ、組み合わせると強いのだと思います。

鈴木先生は、操体における術者の立ち位置を「治療家というよりコーディネーター」と表現されていました。選択肢は示しますが、選ぶのは本人で、実際に動くのも本人です。術者は“答えを与える”よりも、“感覚が働く条件を整える”ことが大切だ、というお話でした。

2. 「歪み」は連鎖します——全身へ広がるバランスの話

講義では、「歪みを放っておくと全身の働きに影響が広がっていく」という操体の身体観も紹介されました。たとえば競走馬の例として、骨折そのものよりも、かばい続けることで全身のバランスが崩れ、二次的な問題が連鎖して命に関わることがある、という話が出ました。人間でも同じように“代償”が続くと、別のところに負担が出てきます。 

私たち指圧師も、日々の臨床で「主訴の場所と、本当につらさを作っている場所が違う」場面をたくさん見ています。操体の面白さは、「原因を当てに行く」というより、いま身体が採用している“歪みのパターン”をやさしくほどくための方法論として使える点だと感じました。

3. 指圧×操体の合流点——「ゆるめてから押す」と効果が上がる

講座中、とくに印象に残った比喩が「冬眠明けの熊」のお話です。冬眠明けの熊は全身がカチコチです。そこにいきなり指圧でほぐしにかかるより、まずは猫が伸びをするように、本人が気持ちよく動いて“ゆるみ”を作ってから指圧を入れたほうが、効果的なのではないか——という提案でした。

言い換えると、操体が“前処置”として働き、指圧が“仕上げ”として深まる、という順番です。ゆるめてしまえば、指圧の入り方が変わり、施術効果が上がる。これは多くの先生方がすぐに臨床で試したくなる発想だったと思います。 

さらに操体は「ひとり操体」が基本で、健康指導(セルフケア)が重要だとも明確に示されていました。施術室で整え、日常で崩しにくくする。その橋渡しとして短い“宿題操体”を出せるのは、指圧師にとって大きな武器になりそうです。 

4. 検査を“可視化”する工夫——体重計とコイン

今回、操体を施術の前後評価に取り入れやすくする工夫として、簡便な検査も紹介されました。

(1)体重計を2個使う左右荷重差のチェック

左右それぞれの足で体重計に乗り、左右差を見ます。ここで大事なのは、本人が数字を見ると無意識に合わせにいくので、術者側が把握し、本人の感覚とのズレを丁寧に扱うことです。鈴木先生の臨床実感として、左右差が体重の3〜5%程度ある方が多い、というお話がありました。

操体後に再測定すると変化が見えやすく、本人の“納得”にもつながります。 

(2)コインを使った検査(動診)

荷重の偏りや動きの癖は、言葉だけでは伝わりにくいことがあります。そこでコインを使って、立位での重心移動や足部の使い方を“見える化”する方法が紹介されました。参加者が「自分ではこうしているつもり」と「実際」の差に気づく場面が多く、学びが深まりました。 

検査というと“正誤判定”になりがちですが、操体では「気づきのきっかけ」にすることが大切です。体重計やコインは、本人の感覚を育てる道具なのだ、という視点がとても印象的でした。

5. 操体の基本キーワード——「快方向」「連動」「たわめ」「瞬間脱力」

操体の実技は、動診(両腕挙上、前後屈、捻転、側屈など)で“動きの抵抗”を観察し、快方向を見つけて介入する流れで進みます。 

•快方向の選択:痛みや不快を避け、心地よい方向を選びます。

•連動:局所だけでなく、全身の協調としてゆっくり動きます。

•たわめ(撓め):竹のしなりのように、節と節の連動を保ったまま“十分なテンションが感じられる”までしならせます。

• 瞬間脱力:たわめた状態から「フッ」と力を抜く瞬間に整いが起こりやすくなります。

指圧師にとって特に実用的なのは、「連動」を観察し、必要なら誘導する視点だと思います。腕の回旋は肩だけでなく腰へ、膝倒しは脚から骨盤、脊柱、頭頂へ——とつながっていきます。操体はそれを“矯正する”のではなく、快方向で自然に連動が立ち上がる条件を整えていく方法なのだと理解できました。

6. 代表的な実技——臨床に持ち帰れる“型”

当日は基本形に沿って、複数の操法が紹介されました。資料には、膝1/2屈曲位の左右傾倒(いわゆる膝倒し)、肩関節・上肢の操体、腰背筋・大腿筋の異常緊張をゆるめる「カエル足」、体幹回旋・側屈・前屈・伸展などが整理されています。 

ここでは、指圧臨床への接続がしやすい形でポイントをまとめます。

(1)膝倒し:脚→骨盤→脊柱→頭頂への連動を引き出す

腰背部のだるさや違和感がある方に、両膝を左右へ倒していき、快方向を選びながら連動を全身へ波及させていきます。

(2)肩関節・上肢:腕の回旋を手掛かりに、肩だけでなく体幹まで

頸肩腕の不快感では、内旋・外旋の動診で快方向を見つけ、必要に応じて術者が軽く抵抗をかけながら、腕→肩→体幹へ連動を導いていきます。

(3)頸部:圧痛点の確認と伸展方向の操体

頭板状筋などの圧痛を触診し、顎を上げる方向へ反らせていきます。胸郭や背部の連動が出たところで脱力を入れ、数秒保持して2〜3回反復する、という目安が示されました。 

どの操法にも共通していたのは、「可動域を広げること」よりも「不快の消去(軽減)」が中心に置かれている点でした。症状名に引っ張られすぎず、動きの抵抗と快方向を手掛かりに介入する——この姿勢は、指圧の“所見優先”の臨床思考とも相性が良いと感じます。

7. 「ひとり操体」——健康指導としての強さ

操体法が特徴的なのは、「ひとり操体」を基本に据えて、健康指導へ直結しているところです。資料でも「操体法は『ひとり操体』が基本」「健康指導が大事」と明示されていました。 

ひとり操体は、特別な器具も要らず、短時間でできます。講義では、セルフケアとしてのキーワードとして

①快適さを選ぶ、②ゆっくり動く、③連動を感じる、④考えるな、感じろ、

というポイントが整理されていました。

実際に指導するなら、両腕挙上・前屈・伸展・捻転・側屈などの基本動作を「検査と運動」を兼ねて使うとわかりやすいです。痛みの出ない範囲で、気持ちいい側(方向)を選び、最後に「ストン」と力を抜く(瞬間脱力)。言葉で難しい場合は、「伸びをして、気持ちいいところでフッと脱力する感じです」と生活動作に置き換えると伝わりやすいと思います。

また、宿題として渡す際は“やり過ぎない”設計が大切です。操体は鍛える運動ではなく整える方法ですので、1動作2〜3回、合計1〜3分程度から始め、実感が出たら本人のペースで続けてもらうのが現実的です。

8. 足は土台であり、入口です——足底から全身へ

講義では足部の重要性も強調されました。資料には「足は人間工学上の最高傑作であり、最高の芸術作品である」(ダ・ヴィンチの言葉として紹介)という一文が掲げられ、足が26個の骨から成り、全身の約1/4の骨が足に集まっていること、支持・バランス・衝撃吸収という相反する機能を同時に担うことが整理されていました。 

さらに、足底筋膜から後頭下筋群までを一本の筋膜ラインとして捉える考え(SBL)も紹介され、「足底をゆるめて整えることが、全身を整える礎になる」という臨床イメージが補強されました。 

足部の入力が変わると、下腿、骨盤、脊柱、頸部へと張力の分布が変わっていきます。操体は、その変化を「快」と「連動」で安全に起こす方法だ、と捉えると納得しやすいと思います。

9. 臨床に入れるときの注意点——「やり過ぎない」「痛みを追わない」「評価を残す」

最後に、操体を臨床で活用するうえでの注意点を三つにまとめます。

(1)やり過ぎない

快方向の動きは“効きそう”に感じるので、回数や可動域を増やしたくなりますが、操体は強刺激を競うものではありません。「たわめ」と「瞬間脱力」の質が核心です。回数を増やすことは重要ではありません。
※「快」の感覚が持続していれば、回数を制限する必要はありません。

(2)痛みを追わない

操体では痛みが出た時点で快ではなくなります。本人の感覚が羅針盤ですので、術者の「こう動かしたい」を優先しないことが、安全性と効果の両立につながります。

(3)評価を残す

操体の価値は、受け手が「自分で変えられた」と実感できる点にあります。体重計や簡単な動診の前後差を一言で記録し、次回来院時に振り返れるようにすると、セルフケアの継続にもつながります。

まとめ——指圧は「手で聴く」、操体は「身体に聴かせる」

操体法は、指圧の枠を壊すものではなく、指圧を“より生きる形”で使うための準備運動になり得ます。受け手が自分の身体を感じて動き、整ったところで、指圧で深く触れていく——この流れは、施術者にも受け手にも納得感があり、治療から健康指導へも自然につながっていきます。 

指圧は「手で聴く」技術だとよく言われます。そこに操体の「感じて動く」という要素が加わると、臨床の見え方がもう一段立体的になります。今回の研究会の学びが、会員の皆さまの引き出しを増やし、日々の施術の質をさらに底上げするきっかけになれば幸いです。

(黒澤)

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