保護中: 研究会アーカイブ「操体法 ― 立位の基本運動」 講師:中溝誠吾

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神奈川県指圧師会 七月研究会報告
「操体法 — 立位の基本運動」 講師:中溝誠吾

 操体法は「息・食・動・想」の4要素を重視し、身体の歪みを“楽な方へ動く”ことでリセットする療法です。7月の研究会では中溝誠吾さんに講師をお願いし、立位の基本運動(般若身経)をはじめとする操体法における基礎的な動きを解説していただきました。

■ 気持ち良いが身体に良い

 不調や痛みを感じたら、無理にその部位を伸ばしたりするのではなく、「気持ちよさ」を指針に、痛みのない方向へ動くことで身体本来の自己調整力を引き出すのが操体法の考えです。

 ここで大切になるのが原始感覚という概念です。操体法における「原始感覚」とは、人が生まれながらにして備えている身体や精神の状態に関する直感的な感じ取る能力を指します。

 例えば動物ではどこかが痛いときに、動物自身がそれを治そうと無理に引き伸ばしたり、痛いことを頑張るということはしません。しかし、人の場合は理性を獲得したために、体の不調があると何とかしてそれを治そうとする思考が働きます。

操体法ではむしろその不快感を味方として捉え、痛みの出る動きではなく「自然に心地よい方向へ逃げる」ことを重視します。

■ 自分でできる操体法の実践

操体法を実践する上での基本は、まず自分の体を観察し(視診)、次に実際に動かしてみて感覚を分析する(動診)ことです。

<操体法の基本手順>

1. 動診: 左右対称の動き(例:腕を上げる、脚を倒す)をゆっくりと行い、どちらが楽か、動きやすいか、心地よいかを感じ取ります。

2. 実践: 楽で心地よいと感じた方の動きだけを、鼻から息を吸い、口からゆっくり息を吐きながら行います。

3. キープ(撓める): 動きの最終地点で2〜3秒ほど動きを保ち、感覚を味わいます。

4. 脱力: 息を吐きながら、ストンと一気に全身の力を抜きます。

5. 深呼吸: 最後に深呼吸をして、体をリセットします。

この一連の流れを2〜3回繰り返した後、再度動診を行うと、やりにくかった方の動きが改善していることが多くあります。

■ 「身体運動の法則」

 身体運動の法則は、体がどのように連動し、どのように重心を扱うべきかを示した3つの基本的な法則から成り立っています。これらの法則を理解し実践することで、非効率な動きや体の歪みを防ぐことができます。

1. 連動の法則
体の一部分を動かすと、その部分だけでなく全身がつながって動くという法則です。

※ 歪みの連鎖: 体の一箇所に歪みが生じると、それを補うために全身へと系統的に歪みが波及します。例えば、不均等な歩き方や体重のかけ方は、足、膝、股関節、骨盤、脊柱、そして顎や頭のズレへと連鎖的に影響を及ぼすことがあります。

※ 整復の連鎖: 逆に、この連動性を利用して、末端の局所的な調整が遠く離れた部位にも良い結果をもたらすことがあります。

2. 重心安定の法則
運動する際は、腰を伸ばし、おへその下にある丹田を体の要(かなめ)として安定させることが重要であるという法則です。

※ 意識の向け方: 重心を安定させるためには、手は小指側、足は親指側を意識して動かすようにします。

3. 重心移動の法則
動きの種類に応じて、重心を正しく移動させる法則です。この法則を間違えると、動きが非効率的になり、体の歪みを引き起こす原因となります。

※ 屈曲の動き: 体を曲げる時は、伸びている側に重心を移動させます。

※ 伸展・捻転の動き: 体を伸ばしたり、ひねったりする時は、動く方向と同じ側に重心を移動させます。

■ 立位の基本運動(般若身経)

 般若身経は日常生活の歪みを整える、立って行う7つの基本運動です。シンプルな動きの中に操体法のエッセンスが凝縮されています。

1. 基本姿勢(自然体): 足を腰幅に開き、つま先を平行にして立ちます。視線を一点に定め、現在の足裏のどこに体重が乗っているかを感じます。

2. 両腕水平上げ: 基本姿勢から、息を吐きながら両腕をゆっくりと水平まで上げ、感覚を味わった後、一気に脱力して腕を下ろします。

3. その場足踏み: 正面の一点を見つめ、膝を高く上げて力強く30〜50回足踏みをします。これにより体のバランスが整います。目を閉じて行うと、重心が偏っている方向に体が移動・回旋するのがわかります。

4. 前後屈: まず上体を前に倒し、無理のない範囲で一息つきます。体を起こす際は顔を先に上げてから行うと、下腹に力が入りやすくなります。次に体を後ろに反らせます。

5. 左右側屈: 体を真横に倒します。この時、体を倒す方向とは反対側の足に重心をかけ、腰をそちらに押し出すようにするのが重要法則です。

6. 左右捻転: 体を横にひねります。顔が向く方の足に重心をかけ、反対側のかかとは自然に浮き上がります。

7. 伸び縮み: つま先立ちになり、両手を真上に上げてぐっと伸びます。一息ついた後、息を吐きながらかかとと腕を同時にストンと下ろします。

■ 二人操体

二人操体における「ひざ倒し」

二人操体における「ひざ倒し」は、一人が受け手(本人)、もう一人が操者となって行う操法です。主に腰部や骨盤周りの歪みを整えることを目的とします。操者は受け手の動きを補助し、適切な抵抗を加えることで、一人で行うよりも深いリラクゼーションと体の連動を引き出します。

基本的な手順

以下は、二人操体での「ひざ倒し」の手順です 。

  1. 準備: 受け手は仰向けになり、膝を立てます(基本姿勢)。
  2. 動診(動きの確認): まず、受け手は両膝をそろえてゆっくりと左右に倒し、どちらの方向が倒しにくいか、痛みや突っ張り感などの違和感があるかを確認します 。これは「感覚差」の確認です 。
  3. 快適な方向への運動: 操者は、受け手が違和感なく楽に倒せる側の膝頭に軽く手を添えます 。受け手は息を吐きながら、気持ちよく感じるところまで膝を倒していきます 。
  4. 抵抗と保持: 受け手の膝が最も気持ちよく倒れたところで、操者はその動きに対して軽く抵抗を加えます 。受け手はこの状態を3〜5秒間保持します 。
  5. 脱力と深呼吸: 保持した後、受け手は全身の力を「ストン」と抜きます(瞬間脱力)。その後、ゆったりと一息、深呼吸をします 。
  6. 反復: 落ち着いたらゆっくりと元の姿勢に戻り、この動作(手順3〜5)を2〜3回繰り返します 。
  7. 再確認: 再び動診を行い、最初にあった左右の感覚差が改善・均等になったかを確認します 。

重要なポイント

  • ゆっくり動く: 違和感を見つけるためには、特に動診の際はゆっくり動くことが大切です 。
  • 痛みからの逃避: 操体では、違和感や痛みが生じる部位から「逃れる」気持ちで動くことが基本です 。
  • 適切な抵抗: 操者が最適なところで抵抗を加えることで、全身への協調運動(連動)が引き出されます 。力みすぎると連動が妨げられるため、受け手は息を吐きながらリラックスして動くことが重要です 。
  • カップリングモーションの活用: より効果を高めるために、膝を倒す方向と逆の方向に顔を向ける方法があります 。これにより、脊椎がタオルを絞るように捻転し、首や胸椎の歪み改善にも繋がります 。

応用:「片ひざ倒し」

通常の「ひざ倒し」で効果が不十分な場合、「片ひざ倒し」を試します 。これは特に股関節の外旋筋である梨状筋の緊張にアプローチする際に有効です 。

  1. 圧痛点の確認: 操者は受け手の尻の下に手を差し入れ、仙腸関節稜に沿って外側を探り、梨状筋の圧痛点(押して痛い点)を見つけます 。
  2. 抵抗と運動: 圧痛があった側の膝を、操者が外側から支えるように抵抗を加えます。受け手はその抵抗に抗うように膝を十分に押し倒します 。
  3. 保持と脱力: 力を留めた後、瞬間脱力させます 。
  4. 再確認: 再び圧痛点を押し、痛みが解消していれば腰痛も改善していると判断できます 。

立位や歩行時に、つま先の開きが左右で異なると梨状筋に圧痛が生じやすいとされています 。この応用操法は、そうした歪みに直接的に働きかける方法です。

二人操体における「つま先上げ」

二人操体での「つま先上げ」は、一人が受け手(本人)、もう一人が操者(施術者)となって行う基本的な操法です。主に膝の裏(ひかがみ)にある圧痛(押すと痛い点)を指標とし、それを解消することで足から骨盤、さらには全身の歪みを整えることを目的とします

手順

二人操体での「つま先上げ」の手順です 。

  1. 準備と圧痛点の確認:
    • 受け手は仰向けになり、両膝を立てます 。
    • 操者は受け手の両膝の裏側(ひかがみ)を探り、硬結や圧痛点があるかを確認します 。この圧痛点は、主に「足底筋」という筋肉の緊張を反映しています 。
  2. 操法の実施:
    • 操者は、受け手の両方の足の甲にそれぞれ手を置きます 。
    • 受け手は、かかとを床につけたまま、圧痛があった側の足の指を反らせながら、足の甲をゆっくりと持ち上げます 。
    • 操者は、受け手が足の甲を持ち上げる動きに対して、ごくわずかな抵抗を加えます 。
    • 受け手は、足先を持ち上げた状態で3〜5秒間保持します 。
    • その後、操者は受け手に合図し、受け手は力を「ストン」と瞬間的に抜きます(脱力) 。
    • 脱力後、ゆったりと一息深呼吸をします 。
  3. 反復と再確認:
    • 上記の手順を2〜3回繰り返します 。
    • 操法後、操者はもう一度膝の裏の圧痛点を探ります。筋緊張が解消または軽減していることを確認します 。

重要なポイント

  • 足指を反らす: 足の甲を持ち上げる際に、足の指(特に親指や小指)を意識してしっかりと反らせることが重要です。これにより、足裏からふくらはぎ、ももの裏側へと筋肉の連動が効果的に伝わります 。
  • 力の入れる方向: 体の外側に不調がある場合は小指側、内側に不調がある場合は親指側に力を入れるように意識すると、より効果的です 。
  • 膝の角度: 膝を曲げる角度によって力の入り方が変わります。90度が標準ですが、人によって安定する角度は異なるため調整が必要です 。もし圧痛が取れにくい場合は、膝をより深く曲げて行うと骨盤の動きが大きくなり、効果が出やすくなります 。
  • 他の動きとの関連: この動きだけで圧痛が無くならない場合でも、他の操法(例:「ひざ倒し」)で体のバランスが整えば、結果的に圧痛は消えることがあります 。

足指まわし操法

「足指まわし」は、足の指を一本ずつ回すことで、その動きを全身に伝え、体全体のこわばりや緊張を解放することを目的とした二人で行う操法です 。単なる指のマッサージではなく、全身の連動を引き出すことが重要とされています

手順

「足指まわし」の具体的な手順です。

  1. 準備: 受け手は仰向けの基本姿勢をとります 。操者は受け手の足元に位置します。
  2. 指の保持: 操者は、受け手の足の第5指(小指)を、自身の第二関節に乗せるようにそっと持ち、親指で軽く支えます 。
  3. 回転運動: その指を支点に、外向きに小さな円を描くように優しく回し、その揺れを全身に伝えます 。
  4. 全身の揺れ: 理想的な状態では、受け手のあごが軽く上下に揺れ、滑らかな動きが全身に伝わります 。体全体が水の入った袋のように、気持ちよく揺れる状態を目指します 。
  5. 指の順番: 第5指(小指)から始め、第4指、第3指と順番に第1指(親指)まで行います 。
  6. 確認: 体の揺れがスムーズになり、こわばりが取れると、操法後に受け手の足が軽々と上がるようになります 。

重要なポイント

  • 全身への連動: この操法の目的は、指一本ずつのマッサージではなく、体全体の揺れを引き起こすことです 。
  • 滑らかな動き: 操者は、受け手のあごが自然に上下に揺れるような、滑らかな全身運動が起きるように働きかけます 。

創始者である橋本敬三先生は、体の土台は足であり、その中でも足の指が最も大切であると述べています 。東洋の物療では経絡の始点と終点が手足の指先にあることからも、その重要性が示唆されています 。

 

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