保護中: 定例研究会 6月22日「アナトミカルフロー指圧」講師 黒澤一弘

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神奈川県指圧師会 定例研究会 令和7年6月22日
「アナトミカルフロー指圧」講師 黒澤一弘

今回の研究会では、記録動画の撮影が出来なかったため、会員用アーカイブはありません。
研究会で使用したPDF資料(8ページ)をダウンロードできるようにしました。
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二次元から三次元へ:解剖学的視点の導入

これまで指圧療法は、体表から「どこを何点押すか」という二次元的なアプローチで考えられることが主流でした。しかし現代は、解剖学の知見によって人体をより立体的に捉えられるようになりました。アナトミカルフロー指圧では、圧点の背後にある筋肉や神経、筋膜のつながりをイメージし、三次元的な視点から丁寧にアプローチします。

今回の研究会でお伝えしたいのは、優しく丁寧な触れ方より、2点を離れた部位を同時に刺激するアプローチです。
その2点は、同じ筋の筋や腱のみならず、筋・筋膜連結を考慮したアプローチ、主動作筋と拮抗筋の同時刺激などが考えられます。また1点のみに長い持続圧を施すことがためらうような場合においても、片手で持続圧をしながら、もう片方の手で通常圧法や流動圧法を行うことにより、受けての「意識そらし」になり長い持続圧が容易になります。

多点同時アプローチの例

  • 同筋の多点同時刺激(起始-停止や筋腱移行部など)
    • 肩甲挙筋 C1〜C4横突起 ー 肩甲骨上角
    • 坐骨結節 ー ハムスト停止部(腓骨頭や鵞足周辺など)
    • 内側上顆 ― 前腕屈筋群
    • 外側上顆 ― 前腕伸筋群
  • 拮抗筋
    • 大腿四頭筋(起始) ― ハムストリングス(起始)
    • 腸腰筋 ― 多裂筋
  • 筋・筋膜連結
    • 僧帽筋上部 ― 三角筋前部
    • 僧帽筋中部 ー 三角筋中部
    • 菱形筋 ― 前鋸筋
    • 腸脛靭帯 ― 大殿筋
    • 腸脛靭帯 ― 大腿筋膜張筋
    • 坐骨結節 ― 膝周り 腓骨頭・鵞足周辺〜足首まで
    • 腋窩掌圧 ― 上腕三頭筋 内側筋腱移行部、上腕二頭筋〜内側上顆〜手首〜指
  • 腱流動圧法 ― 筋腱移行部
    • 長母指屈筋 (内果後方)
  • 意識そらし
    • 中殿筋 ― 骨盤底筋群
    • 小胸筋 ― 僧帽筋上部 など

圧法の工夫

  • 母指と四指圧、掌圧、把握圧の同時刺激
  • 持続圧とリズミカルな圧の同時刺激
  • 片方の四指で皮膚の遊びを取り、もう片方で母指圧
  • タッピングに近い素早く浅い圧を双手で行う
    → 減圧を完全にもどさず、組織の反発力をもう片方の手指で受け止め、再び素早く浅い圧が加圧されると効果的
  • 四指圧にて、受け手の体重を利用するように下から四指の屈曲で押圧する
    → 受け手に余分な力が入らず、無理なく圧が浸透する

押し方の工夫と身体力学

アナトミカルフロー指圧では、全身の伸筋群(足・腰・背中・腕・指)を連動させて押圧します。これは太極拳のように地面からの反力を活かし、施術者も疲れにくいのが特徴です。この根幹を成す基礎技術は「押圧法」と呼ばれます。

作用・反作用」を意識し、押すだけでなく反作用の感覚も大事にします。反作用を意識する押圧を行うことでただ体重を載せるのではなく、コントロールされた垂直圧を行うことが容易になります。

また、押し方より重要な「触れ方」と「手首の締めによる四指の密着」についてもお伝えします。

※ “触れ方” や “手首の締めによる四指の密着” 、”押圧法”(反作用圧法)はとても重要な技術ですので、研究会の前半でまず根幹となる基礎技術をお伝えします。後半で多点同時アプローチや応用圧法について掘り下げます。

「心」の大切さと全人的ケア

アナトミカルフロー指圧は、技術だけでなく「心」も大切にします。浪越徳治郎が説いた「母ごころ」の精神は、現代の全人的ケアにも通じます。触れる相手の存在そのものに敬意を持ち、コリや痛みも「がんばってきた証」として受け止めて触れる。その温かな姿勢が、真の癒しにつながるのです。

特に注目すべきは、触れる側の意図や心の状態が、触れられる側の生理的反応に影響を与えるという研究結果です。Kerr et al.(2016)の研究では、施術者の意図的な注意集中(マインドフルネス)が、受け手の痛みの知覚を変化させることが示されています。

これらの科学的知見は、浪越徳治郎が直感的に理解していた指圧三原則のひとつ、集中の原則や「母ごころ」の重要性を、現代科学の言葉で裏付けるものと言えるでしょう。アナトミカルフロー指圧では、この科学的エビデンスと東洋医学の叡智を融合させ、より効果的な施術を目指します。

圧の呼吸

マインドフルな触れ方、そして押圧を実現させるための「圧の呼吸 」についてお伝えします。これは特別な呼吸法ではなく、自分の自然な呼吸に気づき、そのリズムで相手に触れること。なにか考え事が浮かんでも、一押しごとに呼吸に意識を戻すことで、より繊細な感覚を指先で感じ取れるようになります。

そして、呼吸と押圧が自然と同期することで術者と受け手の一体感が生まれます。術者がフローの状態に入ることで、「我を忘れて押す指に ひびくは奇しき力ぞや」の状態に近づくと考えています。

「フロー」の二つの意味

アナトミカルフロー指圧の「フロー」には、血流改善と気の流れという文脈があります。筋肉の緊張をほぐし、やさしい施術で血流の回復を促します。そして東洋医学の「気の流れ」も意識し、相手の状態を感じ取ることを大切にします。

そして、”圧の呼吸” のように「集中の原則」を重要視することにより、術者がフローの状態に近づくことを目指す文脈も含んでいます。

個性の尊重と創造性

アナトミカルフロー指圧は決まった型を一方的に伝えるものではありません。基礎知識と基礎技術を土台にしつつも、一人ひとりの個性や感性、創造性が生きる施術を大切にしています。それぞれの指圧師が自分らしいスタイルを育み、学び合う文化を応援します。

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