11月17日 「熱指圧」講師:黒澤一弘

目次

神奈川県指圧師会 定例研究会 11月17日
「熱指圧」黒澤一弘

日時:令和6年11月17日(日)午後1時〜5時
場所:紡指圧(相模大野)
   神奈川県相模原市南区相模大野5-27-39 和田ビル2階google map

※ 要申し込み
※ 会員のみ(当日入会できます 年会費6,000円)
  → 今回は非会員のスポット参加(500円)はありません

今回より研究会の申込みにPeatixを使用します。

神奈川県指圧師会 定例研究会 11月17日 熱指圧(黒澤一弘) | Peatix
↑ お申し込みはコチラ ↑

既存会員の方は、黒澤宛にメール、LINE、ショートメッセージや電話などでも承ることができます。Peatix経由でお申し込みいただけると、人数把握や連絡がしやすいので、可能な方はなるべくお申し込みをお願いいたします。

温熱×押圧の可能性

指圧療法においては、筋肉を施術対象として考える場合が多いと思いますが、結合組織も大切なターゲットです。

指圧によって生体に刺激をいれる場合は「皮膚 → 結合組織 → 筋肉」という順番で作用します。

・表皮:重層扁平上皮
・真皮:密性結合組織
・皮下組織:疎性結合組織 → いわゆる結合組織
・筋膜:密性結合組織
・筋肉

結合組織の線維成分は主にコラーゲン線維です。

解剖学の教科書的には「皮膚は表皮、真皮、皮下組織からなる」となっていますが、ここでは表皮と真皮が「皮膚」と考え、皮下組織は「皮膚」と「筋肉」をつなぐものと考えます。

関節を動かしても、皮膚がつっぱらないのは結合組織(皮下組織)の働きです。
これにより、身体が滑らかに動くことができるようになっています。

結合組織の柔軟性低下は可動域の減少や痛み、冷えを引き起こす

正常な状態の良い結合組織は滑走性がありますが、状態がわるくなると組織が固くなり、滑走性が低下します。動かしたときの不快感や痛みを引き起こすこともあります。

結合組織の状態が悪くなると、血管も圧迫を受けやすくなり、組織への血液循環も滞り、代謝自体も低下するので冷えてきます。

筋肉のコリに加えて、結合組織が固くなり冷えを伴うものを「冷えコリ」と呼びます。
触れた感じ、皮膚がドテッとした感じで印鑑マットのような固さと冷たさがあります。

この「冷えコリ」を解消させるためには、筋肉だけではなく結合組織へのアプローチが必要となります。

「コリ」+「冷え」=「冷えコリ」には温熱+押圧が有効

結合組織の主成分の一つがコラーゲンです。結合組織の線維成分の主体をなします。コラーゲン線維間で不必要なつながり(架橋)が生じると滑走性が低下してきます。

疎性結合組織(ネコ 皮下組織 ニュートラルレッド染色)

コラーゲンは温めると柔らかくなるので、温熱刺激を加えてあげると結合組織全体が柔らかくなってきます。ここで有効なのが温熱で柔らかくした結合組織に対して押圧刺激をプラスさせることす。

結合組織内の液性成分を動かしてあげるイメージです。この液性成分は血液、リンパ液、組織液を総称したものです。

指圧の垂直圧により、押圧部位の液性成分は押され周囲に移動します。圧を抜くと移動した液性成分もまた戻ってきますが、このときに代謝産物などの「滞っていたもの」は均質化されます。

静脈やリンパ管は流れる力が弱いので、結合組織が固くなることで圧迫をうけやすくなります。
温熱を加えて指圧をしてあげることで、静脈やリンパ管の圧迫を解消し、還流をよくしてあげることが可能です。

静脈やリンパ管の流れがよくなることで、毛細血管に新鮮な血液が通いやすくなります。

温かさはやさしくて、気持ちいい

「気持ちよさ」を追求すると、「それは慰安だ、リラクゼーションだ」と思う方も多くいるかと思います。
しかし、わたしは「気持ち良い」ことは大切なことであると考えます。

「安心と信頼」に「気持ち良い」が加わることで顧客満足度が向上し、治癒が発現するための条件が整うと考えます。

また、施術者にとっても、「はじめに手が冷たくて申し訳ない」という心配が皆無になります。
気感を感じるのに「熱を帯びた手」が大切ですが、温熱を組み合わせた施術スタイルにすることでその感覚を得やすくなります。

熱指圧で使用できる温熱器具

温熱瓦(冷え取り瓦) 長久

温熱瓦 長久

遠赤効果:◎
湿熱効果:◎
熱の持ち:◎
参考価格:¥27,500 冷え取り瓦「長久」フルサイズ

温熱療法の最高品質の一品。
セルフケアの道具として開発された製品で、誰もが簡単に扱える。
熱の質と持続性に優れ、繰り返しずっと使えるサステナブルな製品。

屋根瓦を焼いて布に包んで身体にあてるという民間療法がありますが、屋根瓦は温熱療法用には作られていないため、重くて大きく扱いにくいという欠点がありました。

長久はその欠点をすべて解決した一品です。
表参道の真暖鍼灸治療院 物部真弓さんが開発したこの一品は、私が知るなかで最高の温熱療法をもたらしてくれました。

長久は電子レンジで暖めて使います。(4分)
付属している今治の最高級タオルに包んで使います。

多孔質のセラミックでできている長久は内部に空気や水分をたくわえています。電子レンジで加熱することにより長久の内部に蓄えられていた水分が湿気となり熱とともに放出されます。(湿熱)

また、加熱されたセラミックは遠赤外線を放射します。遠赤外線は熱の浸透率が高いので深部にまで熱がしみ込む性質があります。

この湿熱と遠赤外線が組み合わさることにより、上質で気持ち良い熱が長く持続します。

土器を電子レンジにかけると加熱される理由

土器を電子レンジにかけると加熱される理由は、土器に含まれる成分がマイクロ波を吸収し、内部で発熱を引き起こすからです。具体的には、以下の要因が影響しています。

1. 水分の存在

• 長久は多孔質であり、内部に空気と水分を含んでいます。

• マイクロ波は水分子に含まれる極性分子(H₂O)を振動させ、分子間の摩擦熱を生じさせます。この熱が土器の内部に伝わり、加熱が進みます。

2. 金属酸化物の存在

• 土器には酸化鉄(Fe₂O₃)やその他の金属酸化物が含まれていることが多く、これらがマイクロ波を部分的に吸収します。酸化鉄は金属酸化物であり、マイクロ波に対して誘電損失を持つため、加熱される場合があります。

• これらの酸化物がマイクロ波を吸収することで、土器全体がさらに加熱されます。

3. 結晶構造とその他の不純物

• 粘土には二酸化ケイ素(SiO₂)や酸化アルミニウム(Al₂O₃)が含まれています。これらの物質自体はマイクロ波を効率的に吸収しませんが、粘土に含まれる微量の不純物(アルカリ金属酸化物やカルシウムなど)が加熱を助ける可能性があります。

• 特に、焼成温度が低い土器には多孔質な構造が残りやすく、そこに水分や他の物質が蓄えられることがあります。長久は生成過程で土に微生物をいれるという工夫を施しており、焼成の過程でこれからの微生物は死滅しますが、これらの微量物質がきめ細かな多孔質の形成や加熱に寄与しているのかもしれません。

4. 多孔性の影響

• 長久はその多孔質構造より電子レンジ内のマイクロ波が内部にまで入りやすい特徴を持っています。このため、内部がマイクロ波を受けやすく、効率良く加熱されます。

科学的根拠

マイクロ波(電子レンジのマイクロ波周波数2.45 GHz)は、水や一部の金属酸化物などの誘電体材料にエネルギーを供給することで、それらの分子やイオンを振動させ、熱エネルギーを生み出します。土器に含まれる水分、酸化鉄などの金属酸化物、微量の不純物などがこのエネルギーを吸収し、加熱が進行します。

参考文献およびサイト

M. Zhang, et al., “Microwave heating characteristics of ceramics: Water-based and non-water-based materials,” Journal of Materials Processing Technology, 2005.

これは、異なるセラミック材料がマイクロ波加熱にどのように応答するかを扱った研究です。水分や金属酸化物が加熱に大きく影響することが確認されています。

電子レンジにおける誘電加熱に関する一般的な解説

American Ceramic Society

上記のサイトでは、セラミックスや土器が電子レンジで加熱される仕組みや、誘電加熱の詳細が解説されています。

土器が電子レンジで加熱されるのは、残留水分や酸化鉄などの金属酸化物、その他の不純物がマイクロ波を吸収し、熱エネルギーを生み出すからです。これにより、土器全体が温まる現象が観察されます。

ベン石温熱器

ベン石温熱器 角形(中国より輸入)

遠赤効果:◎
湿熱効果:ー(乾熱)
熱の持ち:◎
参考価格:¥28,457 ベン石 Q | 医道の日本社

ベン石温熱器はACアダプタをつないで電気で加熱します。
内部に電熱線が埋め込まれており、その熱でベン石が加熱され遠赤外線とともに温熱効果をあらわします。

木の持ち手が付いているので、圧をかけられる点も特徴です。

5段階の温度調節が可能で、一番熱い設定ですと皮膚に直接あてることはできませんが、厚手の衣服の上から熱をいれたり、タオルに巻いて使うことで熱をマイルドにすることができます。

一方、低い温度設定では皮膚に直接あてることが可能で、オイルとともに使うことも可能です。

加熱されたベン石は蓄熱効果が高く、ACアダプタを外してもかなりの時間熱さを保つのでコードレスで使うことができ、使い勝手がよいです。

論文「中国古代の鍼灸用具として使用されたベン石の岩石学的および鉱物学的研究(Petrological and Mineralogical Studies of the Sibin Bian-Stone, a Material for Making Acupuncture Tools in Ancient China)」では、ベン石(Sibin Bian-stone)の独自の特性が詳述されています。以下はその主要なポイントの要約です。

1. 組成と構造:四川ベン石は、主に炭酸カルシウム(CaCO₃)で構成された高密度の微結晶石灰岩で、約96%がカルサイトです。また、黄鉄鉱、アナターゼ、グラファイトが少量含まれており、これらの鉱物が石の治療特性に寄与しています。
2. 遠赤外線放射:ベン石の顕著な特性の一つに、高い遠赤外線(FIR)放射があります。研究によると、ベン石は8〜14μmの波長範囲で約0.923の放射率を示しており、この波長は人体に浸透しやすく、血行促進や筋肉のリラクゼーション、エネルギーの流れを助けるとされています。
3. 熱伝導性:ベン石内の鉱物の組み合わせは、その熱特性を高めています。特にグラファイトは優れた熱伝導性を持ち、石の蓄熱能力と熱伝導性を向上させます。黄鉄鉱やアナターゼも、石を加熱療法に適したものにするための重要な役割を果たしています。
4. 歴史的利用:ベン石は、数千年前から中国古代の医療で使用されており、鍼や灸の前身として機能してきました。ベン石は尖った形状に加工され、皮膚を押したり擦ったりする治療に使用され、痛みの緩和や血液循環の改善、気のバランスの調整に役立つと考えられています。

この研究は、ベン石の鉱物組成と遠赤外線放射特性が、その健康促進効果に寄与していることを強調しています。詳細については、ResearchGateにて全文をご覧いただけます。

玄米よもぎカイロ

玄米よもぎカイロ スクエア型
玄米よもぎカイロ 巾着型

遠赤効果:○
湿熱効果:◎
熱の持ち:○
参考価格:巾着型2,000円〜、スクエア型・マフラー型3,000円〜

玄米よもぎカイロは、こころまでポカポカするような、やさしい暖さが特徴です。

こちらも、温熱瓦と同様に電子レンジで暖めて使います。
写真の大きさの玄米よもぎカイロでは、1分半〜2分ほどの加熱時間でつかえます。

玄米にふくまれる水分による湿熱効果が高く、安全性も高いので子供からお年寄りまでどなたにも使える製品です。

スクエア型は裁縫が必要ですが、巾着は100均(セリア)で購入できるので、玄米とよもぎがあれば簡単に自作できるのもポイントです。

身体をあたためるセルフケアはどなたにも受入れやすく、心と身体をほっとさせ、健康づくりにとても役立ちます。
気軽にできる温熱療法として、施術にも役立つほか、セルフケアにもぴったり。手作り感あふれるのでプレゼントしても大変よろこばれます。

山口あやこ先生の「玄米よもぎカイロ指導者講習会」を受講すると、玄米よもぎカイロの作り方や地域でのワークショップ開催のコツなどを学ぶことができます。(リンクはX)

受け手のこころを開く触れ方、四指の締め、引きの指圧(押圧法)

温熱療法と組み合わせた指圧には、体重をかけない指圧法である「押圧法」が向いています。
熱指圧は筋組織だけでなく、結合組織も明確な施術ターゲットにいたします。
そのために指頭感覚を鋭敏にさせ、微細な圧のコントロールを可能にする押圧法が使い勝手がよく有効です。

重ね母指圧の「かさね」は 母指が圧をいれたときに同時に発生する受け手の組織からの反作用を受け止めるために使います。圧にあわせて追従する壁の役割をします。

これを理解することで「かさね」を瓦にすることが可能となります。

▶1.  触れ方について

「触れ方」は押圧以上に大切です。触れ方が粗いと、それだけで相手のカラダはキュッと固まって防御体制に入ってしまいます。(身体的デファンス) そして、「粗いな・雑だな」と感じてしまうことで、ココロも防御体制(心理的デファンス)となり、 効果もさがっていまいます。

<目的と注意点>

  1. 繊細で優しい触れ方により、受け手の安心感をもたらします。
  2. 生まれたての赤ちゃんを触るくらいに、これ以上ないほど優しく触れます。
  3. 人体は曲面の集合体です。手指に力が入った状態で触れると、四指の MP 関節より指先までに隙間が生じ、密着感が損なわれます。(四指 MP 関節まで触れることが、圧の安定と浸透につながります)

<方法>

  1. 圧点に母指をふわりと置く。
  2. 四指は自然にそろえ、受け手の体表面に沿い「広がっていく」ように中指を気持ち(1cm ほど) 遠くへ伸ばすようにして MP 関節を接地させる。
  3. MP 関節から四指先までが受け手の体表面に滑らかにフィットする。
    • MP 関節が触れることにより、柔らかさとともに、圧が安定して浸透する。
    • 中指は支え圧の中心軸となる。
    • 小指は支え圧の力の源となる。

<チェックポイント>

  1. 触れた時に、筋肉まで押していないか?(触れた段階では、皮膚表面まで)
  2. 四指は受け手の体表面に対して、偏りがない状態となっているか?

<補足事項>

  • 手指に力が入ると、PIP 関節が急激に曲るなど受け手の体表にフィットしない支えとなります。どの場所を押す時であっ ても、MP 関節~ PIP 関節~ DIP 関節は受け手の体表面に合わせて、滑らかにフィットさせます。
  • この柔らかく触れた段階では、まだ四指の支えが成立していないので、四指は容易に剥がすことができます。

▶2. 手首の締めによる四指の密着(支え圧)

柔らかく体表に手指をフィットさせたら、手首の遊びを取ることにより、四指を吸い付けます。(押圧前に手首の締め動作により支え圧を成立させます。)

包むような支え圧が受け手のカラダをひらいて、圧を受け入れる準備をととのえます。

<目的と注意点>

  1. 四指の支え圧が無い状態で押圧すると、棒で押されたような圧になります。
  2. 四指の支え圧を上手く用いることで、母指圧がより深部へ浸透するようになります。
  3. 四指の支え圧を上手く用いることで、側臥位においても受け手のカラダをゆらさずに圧を入れられます。

<方法>

  1. 肘関節はまっすぐに伸ばした状態ではなく、少し緩んだ状態より始めます(肘が伸展しきっていると、手首の操作がまったくできなくなります)
  2. 前腕をやや回内させることで、手首のあそびをとります。これを「手首の締め」といいます。同時に肘頭はやや外側に向きます。
  3. 小指・薬指のMP関節部を支点として母指と四指が吸い付くように密着します。母指が自然に筋膜表面までやや沈み込みます。
  4. 四指のMP関節、PIP関節、DIP関節は受け手の体表に接し、母指のMP関節は屈曲、母指IP関節は伸展位、そして手掌部は指が2本入るくらいの凹みをつくります。
     ——— ここまでが押圧前 ———
  5. (押圧時)支え圧を成立させるための四指圧は、「四指で押す」のではなく、「四指を引き寄せる」ように意識するのがポイント。

<チェックポイント>

  1. 小指をはがすチェック動作で、四指の支えが成立しているかを確認。
  2. 手掌部に指がはいる隙間があるかを確認。
  3. 母指圧と四指の支え圧のベクトルが受け手の体内で収束するような手の位置となっているか。
    (母指圧のベクトルを四指の面で包むように)

<補足事項>

  • 通常、前腕の動きとしては「回内」動作をいれますが、「回内」により小指を離してしまうのではなく、小指・薬指のMP関節を密着させたまま手首の締めを行なうことで、四指が吸い付くよう密着します。
  • うつ伏せの腰部などの多くの部位では、前述のように「回内」的な動きにより四指を密着させますが、正座をして押す腋窩部や大腿外側部などでは「回外」的な動きにより四指を密着させます。また肩甲上部では四指を引き寄せる動きとなります。
  • 四指圧も「押す」ように加圧すると、母指と四指の両方で圧迫を受けるような“重い圧”となります。
  • 肩甲下部を押す際に、脊柱の際を押したい為に、母指を脊柱に平行に置くと、それに伴い四指の方向が上向きと横向きにずれます。この場合、母指圧のベクトルに対し、左右の四指の圧が集まらないので、支え圧となりません。
  • 大腿後側や大腿前側(4,5点目〜)では、四指の方向に注意してみます。四指尖の方向が下向きとなっている場合には、母指圧と四指圧が集まらないので、これも支えているつもりが、支えとなっていない典型例です。
  • 大腿部では四指尖は下向きではなく、やや斜め前に向けます。手の形だけ取り出すと、重ね母指と四指でボールを抱える形となります。四指先が真下に向いている場合、ボールを抱えることができません。
  • この触れ方と手首の締めによる支えまでを少し時間をかけて、丁寧に修得します。方法は、身体の各部において触れて支えを成立させ、加圧せずに、次々と場所を移す練習を行ないます。とても大切です。

▶3. スタンスについて

押圧の原則は、体重は上手く使ったとしても、受け手にのしかかってしまうことは絶対にしてはなりません。
両下肢の方向や角度によるスタンスには「閉じたスタンス」と「開いたスタンス」があります。双方に利点があるので、状況や部位により使い分けができるようになると良いです。

 ■ 閉じたスタンス

  • 体幹の向きと前側の足指が同じ方向を向くスタンスです。
  • 体幹を前に移動させても、前側の足底で自分の体を支えることができます。
  • 安全性が高く、細かい圧操作に適しています。

■ 開いたスタンス

  • 体幹の向きに対して、前側の足指はやや外側に開きます。
  • 前側の足で自分の体を支えることはできないので、膝を付いている側の下腿—大腿の角度が90度を越えると、圧のコントロールを失いのし掛かってしまいます。
  • 体幹の動きを効率良く圧に伝導させるのに適しています。
  • 腰部や下肢などのラインを一定のリズムで連続して押圧するときに向いています。

<チェックポイント>

  • どちらのスタンスを使うにしても、受け手にのし掛かってはいけません。
  • 押圧時に「受け手が瞬間移動して消えた」場合、同じ姿勢を保っていられるか?

▶4. 重心の位置

安定した押圧は、安定したスタンスよりうまれます。

<(開いたスタンスの場合)方法>

  1. 片膝立ちの姿勢をとった場合に、膝が接している側の大腿と体幹が真っすぐになっている場合は、重心が膝にかかっています。開いたスタンスにおいて、そこから体幹を前に移動させると、重心が膝より前方へ移動し、受け手にのしかかってしまいます。
  2. 重心を膝に落とした状態より、股関節と膝関節をやや屈曲させ、骨盤を後方にスライドさせることにより、重心が下腿〜足背へと下がります。下腿〜足背がしっかりと地面を捉えて、下半身が安定します。

<チェックポイント>

  • 膝に重心が落ちている場合は、誰かが踵を持ち上げようとした場合に、容易に踵が持ち上がります。
  • 重心が下腿〜足背にある場合は、踵を持ち上げようとしても、あがりません。

<補足事項>

  • 後ろ足(膝を立てる側)の股関節は「屈曲・伸展」のみの動きを使用します。
  • 股関節内転・外転の動きは基本的に使いません。
  • 骨盤を後方へスライドさせるのではなく、殿部を後ろに突き出すように股関節を屈曲させてしまうと、下半身と上半身の連動が途切れてしまい、結果として腕の力に頼った圧となってしまいます。尾骨を前方に向けたまま骨盤を後ろにスライドするようにします。(お尻の穴が見えないようにとイメージすると分かり易いかもしれません)

▶5. 軸の使い方

体軸の移動方向を圧点にあわせることで、効率良く浸透する圧をいれることができます。

<方法>

  1. 五円玉ネックレスのやや先に母指を置き、圧点を定めます。
  2. 五円玉が母指の真上を通る方向に体軸を移動させます。この時に移動の初動では圧を掛けないのがポイントです。身体は前に移動しますが、圧をかけずに溜めをつくります。
  3. 五円玉が母指の真上を通過するタイミングで背部と肘が滑らかに伸展することにより圧が入ります。
  4. 足先より下肢、殿部、背中、肘と各関節のほんの少しの伸展を積み重ね連鎖させることにより精度の高い浸透する押圧を行ないます。(手と同時に足も床を押すようにすると安定します)
  5. 押圧時には広背筋を効かせて、肩甲骨を下制、下方回旋させ固定することが大切です。
  6. より強い圧が必要な場合は、足背を床にさらに押し付けることで床反力を使うことができます。

<補足事項>

  • 柱の伸び上がりは真上ではなく、脊柱の傾斜角に沿うように行ないます。(亀が甲羅から頚を出すような感じで)
  • 体軸と圧点が一致すると、容易に自然に浸透する圧が入ります。
  • 反作用が理解できていれば、例えば壁際のベットでの施術などでも、体軸と圧点がずれた環境においても、垂直圧を入れられるようになります。しかし、まずは体軸と圧点をしっかりと一致させた状態で練習を積み重ねるのが良いです。

▶6. 反作用の意識を用いたスタンスの位置取り

反作用の意識を用いることで、受け手に対する身体の角度、膝の位置、スタンスの開き具合などの適切な位置が感覚で分かるようになります。そして、垂直に圧が入るようになります。

方法

  1. 押圧したい圧点に片方の母指をおき、片手母指圧の形をつくります。
  2. 反対側の手で「(仮想の)透明な糸」を圧の方向と真逆に引き上げる動作を行ないます。このとき、手先だけの動きで「透明な糸」を引き上げるのではなく、体幹の伸び上がり動作で行なえる位置をさがします。
  3. その動作が自然に行なえる膝の位置、体幹の向きが、押圧に最も適した位置取りとなります。

▶7. 反作用圧の利点

上下に貫通するベクトルに基づいた動きで加圧するので、垂直に圧が入るようになります。
そして、柔らかく軽いのに深部まで浸透する圧になります。

  • 母指より体幹を遠ざかる動きを加えることで、母指のみに圧が伝導され、四指は包み込む支え圧に徹することができます。結果として重さは抜けるけど、しっかりと浸透する圧になります。(指先に体重を乗せる圧法の場合、母指のみでなく四指にも体重が分散してしまいがち。圧の質が「重く」なります。)
  • 体重でのっかからないので、圧のコントロールを正確に保てます。高齢者や疾患を抱えた方にたいして、安全に施術ができます。
  • 通常より強い圧を必要とする場合、下半身とくに足背から生じる地面からの反力を指先に伝え、圧とすることができます。

▶8. 減圧操作と次の圧点への移動

肘を伸展させた状態で、身体を引くことで減圧をしない。体幹を引かずに、腰・背中・肘にかけての弛緩で減圧します。圧が抜けてから、体幹を後ろに引きます。それに付随して母指が次の圧点へと移動します。

方法

  1. 自分が人型の風船であることをイメージ。風船から空気が抜けるように、背中と肘を「その場」で弛緩させる。
  2. 圧が抜けるのと同時に、背中と肘がやや屈曲し、体幹は受け手にすこし近づく。
  3. 圧が抜けてから、体幹を後ろに引きます。それに付随して母指が次の圧点へと移動します。
  4. 指の移動順番は、重ね母指をほんの少し解き、四指はそのままで、母指のみ次の圧点へと移動させる。そして次に両手の四指を移動させ、ふたたび四指をMP関節より力が抜けた状態で体表の曲面に沿わせて、手首の締めを使い、四指を密着させます。

補足事項

  • 背中と肘を弛緩させ、受け手に少し近づいた状態を作らないと、次の圧点での「伸びしろ」が無くなってしまい、肘と背中の伸展による押圧ができなくなります。

▶9. 弛緩を効率良く導く減圧法(引きの指圧)

減圧時に、肘と背中の弛緩を行い、母指で受け手の組織の反発力を感じるようにします。この「圧がかかっているけど、引いている時間」、すなわち押しながら引くという状態を作り出すことで、スパズムを低減させる効果は格段に高まります。(引きの指圧)

  • この減圧する瞬間に、受け手の組織の反発力を受け止めるようにすることが弛緩を促すということが感覚で分かると、ごく弱い圧で緩めることができるようになります。
  • コリは潰さずとも、緩めることができます。『ここが凝っているんだよ』と受け手の筋肉に教えてあげる感じです。こっている筋肉の筋膜にアクセスすれば、その情報を伝えることができます。

少し痛くする場合

  • ここで、「ほんの少し痛みがでる」くらいに押圧してもいいです。こっている部分は循環がわるく、痛みに敏感になっています。少し痛みがでるところまで圧を入れることにより、受け手に「そこがこっている」ことを明確に伝えることができます。
  • 適度な痛覚刺激は脳内でβエンドルフィンの分泌を促進させ、鎮痛効果と爽快感をもたらします。
  • こりを強い力で潰したり、強制的にもみほぐしたりした場合、一時的に楽になった気がしますが、受け手の組織は傷つき、後日揉み返しが生じます。
  • 少し痛みがでるところまで圧を入れ、そこから無理やり潰さずに、受け手の組織の反発を受け止めながら圧を緩めると、受け手のこころと筋肉が安心するように、一緒に緊張が解けることが多々あります。『あぁ。普段は気がついていなかったけど、いつのまにかここには力が入って緊張がたまっていたんだな。ここはこんなに緊張したりしなくていいんだな…』と。

緩圧法

  • 2段階、3段階にわけて深く圧を入れる方法が緩圧法です。受け手の組織の反発を受け止めながら圧を緩める、すなわち「押しながら引く」時間がもっとも効果が出やすいことを利用するととても効率良く緩圧法を行なうことができます。

超弱圧にて緩める

  • 受け手の生体(多くの場合は筋・筋膜)に対して情報を送ることにより、弛緩を促すことができることが理解できると、少し痛いところまでおさなくても、筋膜にアクセスすればその筋の弛緩を誘導させることができるようになります。
  • これは、どの部位でも可能ですが、特に仰向けの頚部で効果をだしやすいです。頚の硬くなったスジにそっと触れ、ほんの少し圧を増したり、ほんの少し抜いたり、ほんの少しスライドさえてみたりします。手の動きがほとんどわからないくらいの、ごく小さな刺激の変化で大丈夫です。筋肉さんに、「ここがはっているんだよ。こんなに硬くならなくても大丈夫だよ」とそっと優しく伝えてあげる感じです。すると、うまくいくと、すーっと緊張が解け出していきます。

※ お客様患者様との信頼関係ができていない場合、超弱圧は理解を得られないことも多いので注意が必要です。まずは分かり易い「少し痛いと感じるくらい」までの圧を入れることが多いですが、決して、受け手の組織を傷つけるような刺激はいれないことが大切。適度な痛覚は情報として使いつつ、引きの指圧を効率良く使い、リリースを導いてください。

神奈川県指圧師会 定例研究会 11月17日
「熱指圧」黒澤一弘

日時:令和6年11月17日(日)午後1時〜5時
場所:紡指圧(相模大野)
   神奈川県相模原市南区相模大野5-27-39 和田ビル2階google map

※ 要申し込み
※ 会員のみ(当日入会できます 年会費6,000円)
  → 今回は非会員のスポット参加(500円)はありません

今回より研究会の申込みにPeatixを使用します。

神奈川県指圧師会 定例研究会 11月17日 熱指圧(黒澤一弘) | Peatix
↑ お申し込みはコチラ ↑

既存会員の方は、黒澤宛にメール、LINE、ショートメッセージや電話などでも承ることができます。Peatix経由でお申し込みいただけると、人数把握や連絡がしやすいので、可能な方はなるべくお申し込みをお願いいたします。

ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

あわせて読みたい
お問い合わせ 神奈川県指圧師会に関するお問い合わせは以下のフォームよりご連絡ください。(メールアドレスやLINEを知っている方は、直接ご連絡いただいてもかまいません。)神奈川...

コメント

コメントする

目次