神奈川県指圧師会 定例研究会 令和7年7月20日
「操体法 ― 立位の基本運動」講師:中溝誠吾
7月の定例研究会は高齢者の健康維持「予防」に特に注目し、体操や操体法、手技療法などを追求している中溝さんに「操体法」をご講義いただきます。
日時:令和7年7月20日(日)午後1時〜5時
場所:紡指圧(相模大野)
神奈川県相模原市南区相模大野5-27-39 和田ビル2階
※ 要申し込み
参加人数の把握が必要です。
※ 今回zoom配信もおこないます。
zoom参加は会員のみ(申込不要)。入退室自由。
参加URL、パスワードは会報誌に載せます。
神奈川県指圧師会 定例研究会 令和7年7月20日 「操体法 ― 立位の基本運動」講師:中溝誠吾 | Peatix
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身体は経典である――。
7月の神奈川県指圧師会の定例研究会では、操体法の真髄「般若身経(はんにゃしんきょう)」の「立位の基本運動」を探求します。操体法の創始者・橋本敬三医師が遺したこの貴重な叡智を、共に体験し、その深遠な世界観を学びましょう。
橋本敬三氏と操体法の概要
橋本敬三氏は、1897年に福島県で生まれ、新潟医専を卒業後、東北帝大生理学教室で基礎医学を学んだ医師である。彼の医療へのアプローチは、西洋医学の枠に留まらず、民間の健康法や療術にも深い関心を示した点に特徴がある。特に、高橋迪雄氏の提唱した正体術を自ら実践し、その中で身体の変化がどのように進むかを深く洞察した結果、操体法という独自の身体調整法を確立した。
操体法は、初期においては骨格構造を客観的に観察し、運動系の歪みを修正することを主題としていた。これは、痛みや不調の原因が身体の歪みにあると考え、それを矯正することで健康を取り戻すというアプローチである。しかし、橋本氏はその後の研究と実践を通じて、個々人の内部感覚、特に「快」と「不快」の感覚に焦点を当てるようになった。これは、生体が自らフィードバック機能を洗練させ、より質の高い快適感覚を追求することが、真の健康へと繋がるという思想への転換を示している。
操体という言葉は、橋本氏の哲学全体、すなわち「息・食・動・想」という人間の生命活動の四つの要素が相互に影響し合い、補完し合う「同時相関相補連動性」を含む広義の概念を指す。これに対し、「操体法」は、橋本氏が臨床で行っていた具体的な治療や調整の部分を指す。この「操体法」という名称は、1975年から1977年にかけて橋本氏が『現代農業』に執筆していた際、編集者からの提案で生まれたものである。
操体法の基本的な考え方は、「身体の歪みを整えることによって健康を獲得できる」という点にある。不健康な状態、例えば痛みや違和感、不快感、攣れといった症状は、身体の歪みによって生じるとされる。操体法は、これらの歪みを、痛くない方向、つっぱりを感じない方向にゆっくりと身体を動かし、最後に力を抜くことで解消するという、無理のないアプローチを特徴としている。この方法は、身体が本来持っている自然治癒力を最大限に引き出すことを目指している。
橋本敬三氏の操体法は、単なる対症療法ではなく、人間が本来持っている自然な動きや姿勢に着目し、快い方向に身体を動かすことで、身体の歪みを自然に正していくという、根本的な健康法である。彼の思想は、「からだの設計にミスはない」という言葉に集約されており、人間の身体は完璧に設計されており、その設計に沿った使い方をすることで、健康を維持できるという信念に基づいている。
般若身経の理念と理論
「般若身経」は、橋本敬三氏が提唱した操体法の核心をなす概念の一つであり、「からだの使い方、動かし方」に関するテキストとして位置づけられる。この名称は、仏教の経典である「般若心経」にユーモアを込めてなぞらえられたものであり、その内容は身体運動の法則、すなわち人間が本来持っている自然な動きの原理を体系化したものである。
般若身経の根底にある理念は、「人間の身体は完璧に設計されており、その設計に沿った使い方をすることで、健康を維持できる」という橋本氏の思想に深く根ざしている。彼は、現代社会において多くの人々が身体の不不調を抱えているのは、身体の設計に反した不自然な使い方をしているためだと考えた。般若身経は、この不自然な身体の使い方を是正し、身体が本来持っている機能を取り戻すことを目的としている。
般若身経で説かれる身体運動の法則は、人間には基本的な八つの動きが存在するという認識に基づいている。これらは、前屈、後屈、左右側屈、左右捻転、そして牽引と圧迫である。このうち、自力で行うことができるのは前屈、後屈、左右側屈、左右捻転の六つの動きであるとされている。これらの動きを、単なるストレッチや体操としてではなく、「法則に基づいたからだの使い方、動かし方」として実践することが重要である。
般若身経の理論は、身体にかかる負担を最小限に抑え、無理なく動作を行うことを重視する。例えば、一般的な前屈動作では膝の裏筋を伸ばすことを意識するが、般若身経における前屈動作は、前屈するにつれて膝の裏筋が緩んでくるような動きを理想とする。これは、身体の連動性を重視し、一部の筋肉に過度な負担をかけないように、全体でバランスを取りながら動くという操体法の原則に基づいている。
また、般若身経は「快」の感覚を重視する。操体法全体に共通するこの原則は、身体が心地よいと感じる方向に動くことで、身体の歪みが自然に解消され、心身のバランスが整うという考え方である。この「快」の感覚は、単なる主観的な感情ではなく、身体が本来あるべき状態へと導かれる際の生理的なフィードバックとして捉えられる。般若身経の実践を通じて、この「快」の感覚を意識的に感じ取り、それを指針とすることで、より質の高い身体感覚を養うことができる。
要するに、般若身経は、身体の構造と機能に関する深い洞察に基づいた、実践的な身体運動の哲学である。それは、身体を単なる機械として捉えるのではなく、生命力に満ちた有機体として尊重し、その自然な法則に従って動かすことで、真の健康と快適さを追求するという、橋本敬三氏の人間観と健康観が凝縮されたものである。
般若身経の具体的な動作と実践方法
般若身経は、身体運動の法則に基づいた「からだの使い方、動かし方」を実践するための具体的な動作と方法を提示する。その根底には、身体が本来持っている自然な動きを引き出し、無理なく、そして「快」の感覚を伴って動作を行うという操体法の原則がある。
基本的な八つの動き
橋本敬三氏は、人間の身体には基本的な八つの動きが存在すると説いた。これらは以下の通りである。
1. 前屈 : 身体を前方に曲げる動き。
2. 後屈 : 身体を後方に反らす動き。
3. 左右側屈 : 身体を左右に傾ける動き。
4. 左右捻転 : 身体を左右にひねる動き。
5. 牽引 : 身体の一部を引っ張る動き。
6. 圧迫 : 身体の一部を押し込む動き。
このうち、牽引と圧迫は他者の介助や道具を用いる場合もあるが、前屈、後屈、左右側屈、左右捻転の六つの動きは、自力で実践できる基本的な動作として重視される。
実践の原則
般若身経の実践においては、以下の原則が重要となる。
「快」の追求 : 操体法の最も重要な原則であり、般若身経の実践においても核となる。痛みや不快感を感じる方向へ無理に動かすのではなく、身体が心地よいと感じる方向、つまり「快」の方向へゆっくりと動かす。この「快」の感覚は、身体が最も自然で負担の少ない状態へと向かっているサインと捉えられる[7]。
末端からの動き : 操体法の基本的な考え方の一つに「末端から動く」というものがある。これは、身体の中心部からではなく、手足の指先や足の裏といった末端から動きを始めることで、身体全体の連動性を引き出し、より自然で効率的な動きを促すというものである。例えば、前屈動作では、足の指先や足の裏の感覚を意識することから始める場合がある。
膝の裏筋の意識 : 一般的なストレッチにおける前屈では、膝の裏筋(ハムストリングス)を伸ばすことを意識するが、般若身経では異なるアプローチをとる。般若身経における前屈動作は、前屈するにつれて膝の裏筋が緩んでくるような感覚を理想とする。これは、筋肉を無理に伸ばすのではなく、身体全体のバランスと連動性によって自然な柔軟性を引き出すという考え方に基づいている。
呼吸との連動 : 操体法では、呼吸と動きの連動が非常に重視される。息を吐きながら力を抜き、身体を緩めることで、よりスムーズで深い動きが可能となる。般若身経の実践においても、呼吸を意識的にコントロールし、動きと同期させることで、身体の緊張を解放し、リラックスした状態での動作を促す。
日常生活への応用
般若身経で学ぶ身体運動の法則は、単に特定の体操を行うだけでなく、日常生活におけるあらゆる動作に応用できる。立つ、座る、歩く、物を持ち上げるなど、日々の何気ない動作を「快」の感覚を意識しながら行うことで、身体への負担を減らし、姿勢の改善、柔軟性の向上、重心の安定といった効果が期待される。橋本敬三氏は、これらの基本運動を毎日続けることを推奨しており、それによって身体の柔軟性が増し、重心が安定し、姿勢も良くなると述べている。
般若身経の実践は、身体の不調を改善するだけでなく、より快適で質の高い生活を送るための自己管理ツールとしての側面も持つ。身体の感覚に意識を向け、その声に耳を傾けることで、自己の身体に対する理解を深め、健康を自ら創造していく力を養うことができるのである。
橋本敬三氏は、西洋医学の知見と東洋的な身体観を融合させ、「からだの設計にミスはない」という信念のもと、身体の歪みを「快」の感覚を指針として自ら調整する操体法を確立した。その中でも「般若身経」は、身体の基本的な八つの動き(前屈、後屈、左右側屈、左右捻転、牽引、圧迫)を体系化し、特に自力で行える六つの動きを通じて、身体に負担をかけずに、無理なく、そして心地よく動くための法則を示している。
般若身経の実践においては、「快」の感覚を追求すること、身体の「末端から動く」こと、そして呼吸と動きを連動させることが重要な原則となる。これにより、身体の連動性が高まり、自然な柔軟性が引き出され、姿勢の改善や重心の安定といった効果が期待される。また、般若身経で培われる身体感覚は、日常生活のあらゆる動作に応用可能であり、より快適で質の高い生活を送るための自己管理能力を高めることに繋がる。
「般若身経」は、身体の不調を改善するだけでなく、自己の身体に対する深い洞察と理解を促し、健康を自ら創造していく主体的な姿勢を育む。これは、現代社会において、身体と心の健康がますます重要視される中で、私たち一人ひとりが自身の身体と向き合い、その声に耳を傾けることの重要性を再認識させるものである。橋本敬三氏の「般若身経」は、時代を超えて人々の健康と幸福に貢献し続ける、極めて価値のある身体運動の智慧であると言える。
コメント
コメント一覧 (1件)
7月20日の定例研究会の参加、今回も又zoomでの参加お願い申し上げます。