小野田茂先生「指圧へのこだわり」 令和7年10月

目次

指圧へのこだわり(圧法における3つの重要事項)

1、 鍼を打つ角度
2、 鍼を入れる深さ
3、 鍼を留めておく時間。
この3点が置鍼における基本事項です。

置鍼の角度(方向)、置鍼の深さ、置鍼の時間の三点のコンビネーションによる刺激量が患者さんの身体に対して反応するか、しないかの(効くか効かないかの)分かれ目になります。

指圧の圧法も、若干の違いはありますが、圧の角度(方向)、深さ(浸透度)、時間の理論が成り立ちます。

1、角度(方向)
施術者の指腹における刺激による、患者さんの血液循環不良(硬結部)部分の緩和に有効な、圧の角度(方向)を設定します。総論を述べると、面及び
ポイントに対して垂直(90度)圧と定義されています。
2、 深さ(浸透度)
指腹を接触部分として、施術者の身体が傾くことによる体圧が、どのくらいまで入り込む(深さ)か、または浸透するかを深さと定義します。鍼に例えれば何ミリ、何センチ、鍼を差し込んだかを深さと解釈します。
3、時間
施術者が,圧法するにあたり、体の傾きの動きを止めて、持続圧(停止圧)がどのくらいかを時間と解釈します。
重ね親指圧法(重要ポイントの刺激量)における持続圧は、5秒から10秒前後と定められています。

この3点の程よいコンビネーションが、圧のハーモニーを醸し出します。

また呼吸との兼ね合いが、最重要視されます。治療を進行するにつれて、患者さんの呼吸が胸式呼吸から、ゆっくりとした、そして深い腹式呼吸に変化することが、この操法で確認ができたら、この部分の治療を終了とします。
呼吸が腹式(丹田)呼吸に変わると体は、自然治癒力を発動しだします。長い息が長生きに通じると昔から言われていますが、まさに丹田呼吸の実践が、健康の道しるべと云えそうです。
極端にいうと呼吸を正常に戻す(深く、そしてゆったりとした呼吸)ことが、私たちが言う治療に当てはまります。
身体は、目には見えませんし、感じもしませんが常に振動しています。この波動を正常に戻すことが、指圧治療の目的です。

圧の持続時間と抜くタイミング

圧の持続時間について、よく生徒から、明確にいつまで持続圧を維持するのか、そして、圧を抜くタイミング(めど)はいつかと聞かれます。

この質問に答えるためにまず、関節のずれを矯正する治療師の話をしましょう。彼らは、患者さんが息を吐き切り、そして息を吸い込む瞬間の狭間を的確にとらえます。その狭間の瞬間に、関節の矯正方向に衝撃を与えて、ずれを直します。

この呼気と吸気の間の虚を突いて矯正します。この虚を突かない限り、関節の矯正はできません。

指圧の持続圧も同じ理論で説明が可能です。
患者さんの患部に圧を加えてゆく間、患者さんは息を吐き続けます。息を吐きだすのが限界に近づくと、身体、特に患部である指腹の接触部位は緊張状態に入ります。

そのまま圧を持続し、患者さんの吐くという動作が限界に来ると、圧とポイントの硬結が拮抗して押し合います。
ここで呼気が吸気に変わる瞬間の狭間があります。その瞬間は患部の緊張がゼロの状態です。そして患者さんは吸気に入ります。この吸気になった時点で患部にたわみが生じます。

そこで施術者の体の傾きを元に戻すことによって持続圧を解除しますが、この瞬間に施術者は、接触部分の指腹に硬結が消えることを感じることもありますし、逆に、硬結が指腹を押し返してくることもあります。
説明するのに少々難儀しますが、簡単に言うと、呼吸が変化したときに持続圧を終了する、と答えています。

この3点どれもが重要なのですが、あえて重要度を確認すると、時間と深さは、足りないのであれば、施術数を増やすか、施術時間を増やせば、おのずと適度な刺激量を達成できます。
しかし圧の角度(圧の方向)が間違っていれば、たとえ施術回数を増やしたり、刺激量を調節しても、永久に修正できません。一般的に圧は、垂直圧が基本とされていますが、体の傾きを使った体圧による微妙な垂直圧の中に、そのポイントにピッタリ合った垂直圧を長年の経験で、見つけなければなりません。

結論として、ハピネスホルモンを醸し出し硬結を緩める角度の正解が、一つしかないことを考えれば、圧の角度(方向)は、絶対に間違ってはいけない重要項目と言えます。

塾shiatsuparactor 塾長 小野田茂

鍼にはない、指圧における利点の応用(面、ライン、ポイント)

指圧界には、長年にわたり浪越徳治郎先生を師と仰ぎ、浪越指圧を海外、国外を問わず命の果てるまで普及してこられた、または、現在進行中のベテランのレジェンドの指圧師が、何人もいます。

私は、その先生方を師と仰ぎ、指圧の研磨に、いそしんできました。其のレジェンダの一人として、何回となくテレビに出演して、指圧を世に広めた先生の筆頭が、稲場先生です。

ためしてガッテンというNHK 番組で、指圧の時番がありました。先生の実技指導が放送されて、盛り上がった指圧界でした。

その録画を私は、稲場先生から送ってもらい何回も何回も見ました。その中に針におけるポイント重視の治療に比べて、指圧も鍼同様の効果を期待できることの証明、そして指圧の利点である機関銃掃射よろしく面に対して何点でも圧点を見つけて圧するというプロであれば、無意識にやっていることを素人にもわかるように、丁寧に合点と証明された貴重な番組でした。

硬結がある部位をポイント治療することより同筋肉をまんべんなく施術する方が、良い効果が期待されるという結論を、打ち立てたのでした。確かに同じ神経が走行していますので、面治療の利点を生かすことはプロであれば、無意識にやっていることなのでした。それを特にベテランの先生方は、流れ押しという筋膜操作の効果が期待できる手技を用いて、面治療をしているのでした。この手技は、徳治郎先生直伝で習った先生のみが今現在使用している実践の効果のある手技です。ただ虚実理論における実の時の4禁(揉まない、伸展しない、強圧しない,たたかない)を熟知しなければなりません。

同筋肉には、同神経が支配しています、作用も、勿論共通していますので、経絡の重要ポイントがある『筋全体』を重視する方が、快刺激のポテンシャルが上がるという極々理に適う結論です。
具体的には、筋をゾーン・ライン・ポイントに分けて、端から端まで掃射するように細かく圧し、締めくくりとして重要ツボの1点に持続圧をかけます。
大半は『人文字圧』ですが、この最終ポイントは『重ね母指』。もちろん、どんな場合も垂直圧が決め手です。

人文字
重ね母指圧

このシンプルな方法が体を快復へと導く活性剤になることを、長年の患者さんとの接触を通じて確信するのがプロです。ただ、「シンプルだから、誰でもすぐにマネできる」とはいきません。『効く圧』には、手技療法士の知識と経験が詰まっています。ベテランが、無意識に使う手技が流れ押しです。この使い分けが、経験を積むことによって無意識に判断できるようになります。

要は、どう圧するか?

指圧とは読んで字の如く、指で圧す療法と思われがちですが、実は『体全体の傾き』で圧を調節します。  また、圧の安定をはかるカギは、小指です。

親指ではなく小指を意識すると、自然と両肘が両脇に寄っていきますが、『脇を締める』ことで僧帽筋などの背中の筋肉を無駄に使わなくなり、圧への集中力が高まります。

背筋は瞬発力で優位ですが、持続、継続に難があります。反対に、体の前面の胸筋には、瞬発力はないものの、持続力に優れています。
体幹を使って圧を微妙に操作するテクニックで局所の痛みを和らげるだけでなく、全身が心地よくほぐれて軽くなる感覚を生み出すのが施術の極意です。

それは温泉に浸かった時の気持ちよさにも通じ、体がよい方に向かっていくという実感を味わえるからこそ、再び試してみたいと思うわけです。

痛いところを中心に、特定のポイントに圧をかけるのは本来、物理療法士が得意とするミクロ治療です。指圧は指から伝わる感覚をもとに刺激を配分し、全身のバランスを整えるマクロ治療。
全体を俯瞰できるようになって初めて一人前といえるでしょう。

一筋肉を面 ライン、ポイントとイメージして広範囲に圧を入れる。
流れ押しを効果的に使用して筋膜治療をした後に一点圧を入れる。
この辺をうまく使い分けることが、無意識に出来れば、指圧で食うことを可能にします。

前脛骨筋をまんべんなく面ラインポイントを考慮して施術すると三里の効果が得られます。

塾shiatsuparactor 塾長 小野田茂

頸部の指圧の重要性〜位置と効果〜

頚部上部前側1点目の位置と効果(浪越指圧前頚部1点目)

解剖生理学

頚部前側1点目の皮膚の下には広頚筋があり、顎下には舌骨を挟んで上には舌骨上筋と下には舌骨下筋の舌骨筋群がある。

深く押せば第3~第6頚椎横突起の前結節から後頭骨基底部下面に向かう頭長筋に触れることが出来る。

作用

舌骨筋は下顎の咀嚼運動の開口を担当する。頭長筋の作用は両側の緊張で頭部を前屈させ、片側の緊張では同側に頭を前屈させる作用があり、作用がある。

神経支配

頚神経叢(C1~C4)
頚椎1番の横突起の前内側面には前頭直筋、上外側面には外側頭直筋がある。
後頭環椎間の後方からは前頭直筋、外側頭直筋へ行く神経も通る。
総頚動脈にも容易に触れることが出来、内頚動脈、外頚動脈の分岐点の頚動脈小体にも触れることが出来る。

尚、頚動脈、経静脈と共に頚動脈鞘に包まれた迷走神経の存在も内臓の副交感刺激にもなる。

症状

これらの筋の持続的緊張により後頭骨基底部の動きの一部を制限したり、前頭直筋、外側頭直筋は後頭環椎間の靭帯と共に後頭環椎間の緊張をもたらし椎骨動脈の流れを悪くして他の要素も加わることによって立ち眩みや眩暈、酷い時は吐き気、車酔いなども起こし易くなる。

時によっては環椎もしくは大後頭孔のズレにより延髄に軽い圧迫が起こり吐き気や、非常に理解しがたいことではあるが内臓障害や痔が悪くなることもある。
その他腰痛や手足の痺れなども起こすことがある。

参考

こういったことは西洋医学であるメディカルでは理解し難い症状として現れることもしばしばである。しかしながら手技業界であるカイロプラクティックやオステオパシーの考え方から言えば当然のことである。指圧の手技の効果も法律的には西洋医学としては認め難いことだと思うが事実の効果が証明するところである。指圧を行う人達もこう言った解剖学や生理学、症候学を念頭において施術すればより効果的で的確な施術を行うことが出来てクライアント様にも信頼と感謝を得ることが出来る。

禁忌

但し、禁忌としては進んだ動脈硬化や頸動脈にプラークが存在したり、脳動脈瘤の存在や最高血圧が200㎜Hg以上、最低血圧が130㎜Hg以上あるような場合や酷い眩暈などは施術を控えてメディカルを紹介した方が良い。

引用元:『Aze Shiatsu』 小野田茂

この絵図の前頚部一点目又は2点目から4点目まで胸鎖乳突筋上になっていますが、胸鎖乳突筋上は間違っていて気管のすぐ横の頚椎椎体の前面及び頚椎横突起前面上が正しい位置になると思います。

この実技の写真から見ても前頚部は明らかに胸鎖乳突筋上ではありません。従ってこの4点は胸鎖乳突筋とすべきで前頚部4点ではないと思いますが如何でしょうか。
前頚部は椎骨の数から云えば4点~6点位が宜しいかと思います。

引用元:『日本人体解剖学 第1巻』(1982年第18版発行)

頚部前側2点目以降から下位頚部前側までの位置と効果

解剖生理学

2点目以降も頚部前側の皮膚の下には広頚筋があり深く押せば頭長筋及び頚長筋に触れることが出来る。

頭長筋は第3~第6頚椎横突起の前結節から後頭骨基底部下面に向かう。頚長筋は上斜部、下斜部、垂直部の3部からなる。上斜部の起始は第3頚椎から第5頚椎の横突起から起こり環椎の前結節に着き、下斜部は第1胸椎から第3胸椎の椎体から起こり第6から第7頚椎の横突起に着く。垂直部は上位3胸椎と下位3頚椎体部から起こり第2頚椎第4頚椎体に着く。

作用

両側が収縮すると頭を前屈し、片側が収縮すると同側に傾く。

神経支配

頚神経叢および胸神経叢から出る(C3~C8)

禁忌

頸部の禁忌は全体的に共通で、進んだ動脈硬化や頸動脈にプラークが存在したり、脳動脈瘤の存在や最高血圧が200㎜Hg以上、最低血圧が130㎜Hg以上あるような場合や酷い眩暈などは施術を控えてメディカルを紹介した方が良い。

横頚部

解剖生理学

基本的には頚椎1番から7番まで頚椎の横突起の部分になるが頚椎の横突起は前結節と後結節に分かれていて横軸には外方に向かって神経孔を作りそれぞれの頚神経やリンパ管を通過させる。

只、第1頚神経は後頭骨と環椎の間を通るためC7とT1の間を通る頚神経は第8頚神経となる。尚、縦軸には横突孔を作り椎骨動脈を通す。横突起には前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋が付着して首の側屈、前屈、後屈、回旋などに関与する。

神経支配

小後頭神経はC2~C3から側頭部へ、大後頭神経はC2の後枝から後頭、頭頂部に向けて神経支配する。頚神経C5~C8、及びTh1は腕神経叢を作り前腕へ行く橈骨神経、正中神経、尺骨神経として上肢を支配する。横隔膜の律動を支配する横隔神経は頚椎3番もしくは4番から出る。上部頚神経C1,C2は舌下神経、迷走神経とも交通枝を持っている。

その他一部は大耳介神経、頚横神経、胸鎖乳突筋、僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋、等に交通する。 後外側鎖骨上神経、中間鎖骨上神経、内側鎖骨上神経はC4の支配である。僧帽筋や胸鎖乳突筋は頚部脊髄根から出て反回し頚静脈孔から出てくる副神経の支配である。

症状横頚部2点目以下は頚神経1~3の小後頭神経、大後頭神経は側頭部及び後頭部の皮膚表面の知覚神経を司るので皮膚表面の頭痛は頸神経によって上部頚神経によって引き起こされる。従って頭の側頭部、後頭部の皮膚表面の頭痛は上部頚神経を念頭に置いて横頚部の施術で解決できます。

動画資料

稲場先生|疲れを癒す指圧師

稲場先生のキャラクタで誰しもが笑顔になる

4人の指圧師の首の治療

浪越徳治郎先生の首の治療
鈴木林三先生の首の治療
稲場啓護先生の首の治療
ポリドリ先生の首の治療

ヴィデオ基本指圧仕掛け人

指圧のラミナ

指圧の未来を拓く、欧州からの風 ―
小野田茂先生 特別研究会「指圧へのこだわり」

指圧の未来を拓く:小野田茂先生による特別研究会「指圧へのこだわり」の要点

要旨

スペインで47年にわたり指圧の指導と実践に携わってきた小野田茂先生の特別研究会における講演内容を統合・分析したものである。講演の核心は、伝統的な浪越指圧を現代の病理、西洋人の身体特性、そして厳しい市場環境に適応させるための具体的な方法論と哲理にある。

主要な洞察は以下の通りである:

  1. 技術の進化と深化の必要性: 現代の主要な愁訴である「首こり」(スマートフォン症候群など)に対応するためには、従来の「肩こり」治療から脱却し、深層筋へアプローチする必要がある。これには、畳での施術の限界を認識し、ベッドでの側臥位(横向き)技術、特に後頭骨へのアプローチを習得することが不可欠である。
  2. 指圧と伸展法(ストレッチ)の融合: 指圧単独での治療には限界があり、特に現代人の生活習慣病理(例:長時間の座位による大腰筋の短縮)に対応するためには、ストレッチを積極的に組み合わせ、筋肉の機能解剖学に基づいたアプローチが求められる。
  3. 科学的アプローチの導入: 「診断即治療」という従来の指圧の慣習を批判し、カイロプラクティック等に見られるような客観的な診断フェーズの重要性を強調。8つの基本動作分析などを通じて、痛みの根本原因を特定してから施術に入るべきだと説く。
  4. 「圧」の再定義: プロの指圧師は、単なる「点」での圧迫ではなく、「面→ライン→点」という順序で対象筋全体を捉えるべきである。また、90度の垂直圧だけでなく、筋膜を緩める方向性(流れ押し)を意識することが、治療効果を最大化する鍵となる。
  5. 生存戦略としてのマーケティング: 「生体」や「ストレッチ」専門店が駅前で隆盛する中、指圧治療院が埋没している現状に警鐘を鳴らす。若者にも響くブランディング(例:「指圧プラクター」というカタカナ名称の提案)や、指圧の独自性を明確に打ち出す戦略が急務である。
  6. 浪越指圧の本質的回帰: 浪越徳治郎先生の指圧は本質的に「ソフト」であり、筋膜療法的なアプローチを半世紀前から実践していたと分析。特に腹部指圧は、全身の筋膜連結を通じて腰痛などにも効果を発揮するほぼ完璧な手技であると再評価している。

結論として、小野田先生は、指圧が未来を拓くためには、伝統の精神を尊重しつつも、現代解剖学、運動力学、そして戦略的思考を取り入れ、絶えず自己変革していくプロフェッショナルな姿勢が不可欠であると力強く主張している。

1. 浪越指圧の現代的再解釈と国際化

小野田茂先生は、スペインを拠点に47年間、浪越指圧の普及と指導に努めてきた。その経験から、日本で生まれた指圧を西洋人の体格、生活習慣、性格に合わせて最適化する必要性を痛感。本研究会は、その40年以上にわたる試行錯誤の集大成として、指圧が他の手技療法と差別化され、現代社会で「生き延びる」ためのエッセンスを伝えることを目的としている。

  • 基本理念: 浪越指圧をベースとしながらも、それをヨーロッパの人々の身体特性や愁訴に合わせて治療法を改変・進化させてきた。
  • プロの定義: 専門学校で3年間学ぶ内容を、50分から1時間の施術に凝縮し、対価を得ることがプロの仕事であると定義。この凝縮能力がプロフェッショナリズムの根幹をなす。

2. 指圧の技術論:深化と進化

講演では、現代の施術環境や病理の変化に対応するための具体的な技術論が詳細に展開された。

2.1. 畳とベッド:施術環境の戦略的選択

施術者が長くキャリアを続けるためには、畳とベッドの特性を理解し、戦略的に使い分けることが極めて重要であると指摘。

特徴畳での施術ベッドでの施術
利点・圧が完璧に入る
・練習には最適
・施術者の身体(特に膝)を保護できる
・長時間のキャリア維持が可能
・1日に多くの患者(10人程度)を施術可能
欠点・施術者の膝や肘を痛めやすい
・1日に施術できる人数が限られる(5~8人)
・特定の体位(例:側臥位での首治療)が困難
・圧が入りにくい(特に背部)
・角度の調整が難しい
・浪越のベッド技術は未熟であると批判
結論練習には最適だが、プロとして長期的に活動するには身体的負担が大きい。現代の若者が指圧で生計を立てるには必須。畳とベッド双方の利点を組み合わせるべき。
特徴畳での施術ベッドでの施術
利点・圧が完璧に入る<br>・練習には最適・施術者の身体(特に膝)を保護できる<br>・長時間のキャリア維持が可能<br>・1日に多くの患者(10人程度)を施術可能
欠点・施術者の膝や肘を痛めやすい<br>・1日に施術できる人数が限られる(5~8人)<br>・特定の体位(例:側臥位での首治療)が困難・圧が入りにくい(特に背部)<br>・角度の調整が難しい<br>・浪越のベッド技術は未熟であると批判
結論練習には最適だが、プロとして長期的に活動するには身体的負担が大きい。現代の若者が指圧で生計を立てるには必須。畳とベッド双方の利点を組み合わせるべき。

2.2. 現代病理への対応:「肩こり」から「首こり」へ

スマートフォン症候群に代表される現代の生活習慣は、従来の「肩こり」とは異なる「首こり」という病理を生み出している。

  • 病理の変化:
    • 肩こり:僧帽筋などの大きな筋肉が対象。
    • 首こり:後頭下筋群など、骨に近く、より深層にある小さな筋肉が対象。
  • アプローチの変更:
    • 深層筋へのアプローチには、うつ伏せでは限界がある。
    • 側臥位(横向き)での施術が最も面積を広く取れ、効果的にアプローチできる。
    • 側臥位での高度な首治療は畳では困難であり、ベッドの使用が前提となる。

2.3. 「圧」の哲理:垂直圧の先にあるもの

プロとアマチュアを分ける決定的な違いは、「圧」の質と理解の深さにある。

  • 面・ライン・ポイント理論:
    1. 面(Men): まず、対象となる筋肉全体を面として捉え、圧をかける。
    2. ライン(Line): 次に、その面の中を複数のラインに分けて圧をかける。
    3. ポイント(Point): 最後に、最も硬結が顕著なポイント(多くは経絡のツボに近い)に集中して圧を加える。
    4. この手順を踏むことで、アマチュアが点だけを押すのとは比較にならない(2~3倍の)効果が得られる。
  • 方向性(流れ押し):
    1. 90度の垂直圧は基本だが、それだけでは不十分。
    2. 筋肉や筋膜が緩む方向(例:上から下へ、中心から外へ)を意識した「流れ押し」が重要。
    3. 動物を撫でる際の心地よい方向性と同様に、副交感神経を優位にし、身体を弛緩させる方向を見極める感覚が求められる。
  • 角度の重要性:
    1. 指圧が鍼治療と勝負するためには、鍼における刺入角度のように、ミリ単位での圧の角度が治療効果を左右する。
    2. 同じ筋肉でも部位によって最適な圧の角度は異なり、施術者は体勢を変えて常に最適な角度を追求する必要がある。

2.4. 指圧と伸展法(ストレッチ)の融合

現代においては、指圧単独では筋肉を十分にほぐすことはできず、伸展法(ストレッチ)の併用が不可欠であると断言。

  • 大腰筋の重要性: 長時間座る生活は、大腰筋の短縮・萎縮を引き起こす。これが多くの腰痛の根本原因となっている。
  • 拮抗筋のバランス: 大腰筋(屈曲)と大殿筋(伸展)のような拮抗関係にある筋肉のバランスを整えることが重要。
  • 治療への応用: 指圧で筋肉を緩めた後、伸展法を用いて短縮した筋肉(特に大腰筋)を伸ばすことで、根本的な改善が期待できる。

3. 診断と治療の分離:科学的アプローチの重要性

指圧師が陥りがちな「診断即治療」(触りながら診断し、そのまま治療に入ること)の危険性を指摘し、客観的な診断の重要性を強調。

  • 診断の優先: 最初に痛みのある部位に触れてしまうと、その瞬間の痛みが緩和され、正確な診断ができなくなる。
  • 運動分析の導入: 施術前に、患者に8つの基本運動(屈曲、伸展、回旋、側屈など)を行わせ、骨盤と背骨の動きを区別して観察することで、問題のある筋肉や動きのパターンを特定する。
  • 特定の筋肉機能の理解:
    • 腓腹筋 vs ヒラメ筋: 同じ下腿三頭筋でも、腓腹筋は「第2の心臓」としてのポンプ作用が主であり、ヒラメ筋は「姿勢維持筋」として腰痛と深く関わる。
    • 両者を同じように圧迫しても効果は薄い。腰痛患者には、深層にあるヒラメ筋に届くよう、持続時間を長くし、より深い圧をかける必要がある。
  • 炎症への対処: 炎症がある部位には、強圧の指圧、叩打法、揉捏法、伸展法は禁忌。これらの行為は炎症を悪化させる。炎症性の腰痛の場合は、直接患部を刺激せず、腹部や下肢など、間接的に効果のある部位からアプローチすべきである。

4. 治療理論の体系化:小野田式アプローチ

複雑な人体の問題をシンプルに捉え、治療方針を立てるための3つのマクロな視点を提示。

  1. 頭寒足熱(ずかんそくねつ): ストレスなどにより「上実下虚」(上半身に気が上がり、下半身が冷える)状態になっていることが多い。足部を温め、上半身の熱を下ろすという大局的な視点で治療を組み立てる。
  2. 前面と後面のバランス: 身体の前面と後面を司る筋肉群のバランスを整える。
  3. 「4つの首」の治療: 身体の構造上、流れが滞りやすい「首」と名の付く部位を治療の要と捉える。
    • 首(Neck)
    • 手首(Wrist)
    • 足首(Ankle)
    • 腰(”Waist-neck”)

5. 指圧の普及と生存戦略

指圧業界が直面するマーケティング上の課題と、その打開策について言及。

  • 現状分析: 駅前には「整体」や「ストレッチ」の店は多いが、「指圧治療院」はほとんど見かけない。これは「指圧」という言葉が若者に響かず、普及していない証拠である。
  • ブランディングの提案: 20年前に「指圧プラクター」というカタカナ・ローマ字名称を考案し、浪越学園も一時期採用したが、保守的な意見により定着しなかった経緯を明かす。現代的なマーケティング感覚が不可欠。
  • 普及に関する3つの思想:
    • 稲葉先生の思想: 一般の人に自己指圧などを教え、裾野を広げることで普及させる。
    • 松永先生の思想: プロを養成し、プロが高い技術を示すことで普及させる。
    • 浪越徳治郎先生の思想: 「プロは5分で結果を出すが、素人は1~2時間毎日やれば同じ結果が出る」とし、プロと一般の両方に門戸を開くことで、マイナーだった指圧をメジャーに押し上げた。

6. 達人たちの技法分析:稲場先生と林三先生

映像や写真を通じて、伝説的な指圧師たちの技術を分析し、その思想の違いを明らかにした。

  • 稲場哲夫先生:
    • スタイル: 体重を乗せた完璧な「体圧」。
    • 特徴: 患者の体勢を変えず、施術者自身が動くことで最適な角度を作る。非常に気持ちの良い圧だが、施術者自身の身体(特に膝)への負担が大きい。
  • 林三(りんぞう)先生:
    • スタイル: 柔らかく、効率的な圧。
    • 特徴: 自身の身体(腰など)の弱点を自覚しており、患者の体勢を動かすことで、自分は楽な姿勢を保ったまま最適な角度を作る。施術者の身体的負担が少ない。
    • 結論: どちらが正しいということではなく、二つの異なるアプローチが存在すること自体が重要であり、施術者は両方の考え方を理解すべきである。

7. 浪越指圧の本質と筋膜療法

浪越徳治郎先生の指圧の真髄は、一般的に考えられているものとは異なると分析。

  • 「ソフト」な指圧: 浪越指圧は本質的にハードではなくソフトであり、腰痛などの物理的な痛みだけでなく、心のケアや鬱病といった精神的な領域に強みがあった。現代はソフトな手技が求められる時代であり、浪越指圧にとって絶好の機会である。
  • 元祖・筋膜療法: 徳治郎先生の指は大きく、点での圧迫には不向きだった。その代わり、流れるような圧(流れ押し)で施術しており、これは現代でいう筋膜療法(Fascia Therapy)を半世紀も前から実践していたことを意味する。

• • 腹部指圧の重要性: 浪越指圧の腹部施術は、横隔膜、大腰筋、腎臓、骨盤底筋といった連続する筋膜を介して全身に影響を及ぼす。腰痛、便秘、婦人科系疾患など、多様な症状に効果があるのはこのためであり、「ほぼ完璧な手技」と絶賛している。

「指圧の常識」が覆る? 欧州で47年活躍する達人が明かす、5つの意外な真実

「指圧」と聞くと、多くの人が畳の上で白衣を着た施術者が静かにツボを押す、伝統的で不変のルールに則った療法を思い浮かべるかもしれません。しかし、もしその「常識」が、プロの世界では全く異なる形で実践されているとしたらどうでしょうか?

ヨーロッパで47年間にわたり指圧の普及と発展に尽力してきた達人、小野田茂先生が明かす、驚くべき5つの真実をご紹介します。彼の長年の経験から導き出された洞察は、私たちの指圧に対する見方を根底から覆すかもしれません。これは単なる技術論ではなく、時代と共に変化する人間の体と向き合い続ける、プロフェッショナルの叡智の記録です。

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1. プロは「畳」で体を壊す? 指圧師の寿命を左右するベッドと畳の真実

指圧の象徴ともいえる「畳での施術」。しかし小野田先生は、この伝統的なスタイルにこそ、プロのキャリアを脅かす深刻な現実が潜んでいると警鐘を鳴らします。その核心は、「練習」と「治療」の決定的な違いにあります。

練習環境として、畳は圧を正確にかける感覚を養うのに最適です。しかし、プロとして一日中その姿勢を維持することは、施術者の膝や肘に想像を絶する負担を強います。畳では一日5~6人の施術が限界ですが、ベッドを使えば身体への負担が減り、「10人やっても普通な状態」を維持できるのです。この差が、指圧師としての寿命を大きく左右します。

小野田先生は、現代の若者がこの業界で長く生き残るためには、ベッド技術の習得が「絶対に」必要だと断言します。畳は圧を入れるには理想的ですが、施術者の身体を消耗させる。ベッドは圧が入りにくいという課題はありますが、施術者のキャリアを守る。この二律背反こそが、理想の練習と持続可能な治療との間にある、プロの世界の厳しい現実なのです。

練習するなら畳が最高ですけど治療としてはどうなるかなって。… 今の若者はある程度ベッドでやってかないとあの長生きしない。それ で 指圧 で 食う ため だっ たら はっきり 言っ て … 8 人 やっ たら 2 年 で 体 が 壊れ ちゃう。

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2. 「そこ、そこ!」では効かない。プロは「点」ではなく「面」で捉える

「凝っているのは、この一点です」と、硬い場所を指し示すことはよくあります。しかし、プロの指圧師はその「点」だけを狙ってはいません。素人が一点を必死に押すのに対し、プロはまるで要塞を攻略するように、立体的かつ戦略的にアプローチします。

アマチュアは「硬結(こうけつ)」、いわゆる「こり」という一点だけを攻撃しようとしますが、それは要塞を守る一人の兵士を攻撃するようなもので、効果は限定的です。一方、プロはまず筋肉全体を「面」として捉え、その周辺領域を制圧します。次に筋肉の走行に沿った「ライン」を意識し、そして最後に最も重要な「点(ポイント)」を的確に攻め落とすのです。

小野田先生はこのアプローチを、「機関銃のように筋肉全体にアプローチする」と表現します。まず周辺の筋肉群を無力化することで、本丸である「点」をより効果的に治療できるというわけです。テレビ番組『試してガッテン』でも、この「面→ライン→ポイント」という多層的なアプローチは、単に点だけを押すよりも2倍から3倍の効果があると紹介されました。一点集中の素人技と、領域全体を制圧するプロの技術。そこには、効果における絶対的な差が存在するのです。

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3. 「肩こり」から「首こり」の時代へ。スマホが変えた現代人の体と指圧の進化

指圧は固定された伝統ではありません。人々のライフスタイルの変化に対応し、進化し続ける「生きている技術」です。その最も顕著な例が、「肩こり」から「首こり」へのシフトです。

かつて、多くの人が訴えていたのは僧帽筋のような大きな表層筋が原因の「肩こり」でした。しかし、スマートフォンの爆発的な普及により、現代人の不調の主役は、より深刻な「首こり」へと変化しています。この「首こり」は、骨に近い後頭下筋群など、より深層にある小さな筋肉群へのアプローチを必要とします。これは、全く異なる繊細な技術が求められる領域です。

そして、この深層筋へのアプローチに不可欠なのが、ベッドでの施術です。特に横向きでの首の治療は、畳の上では極めて困難であり、身体の角度をミリ単位で調整できるベッドがなければ的確な圧を届かせることはできません。現代人の体が変化したことで、施術環境そのものも進化を余儀なくされているのです。指圧の真髄は、古きを守ることではなく、現代の痛みに寄り添い、変わり続けることにあるのかもしれません。

今考えると昔は肩こりって言ってたのが今は首こりなんですね。いつの間にか首こりになっちゃうんです。… 大きい筋肉はそれは肩こりの治療であって首の治療じゃないんです。

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4. なぜ駅前に指圧院はないのか? 「指圧」という言葉が持つマーケティング課題

どれほど優れた技術も、それを求める人がいなければ意味を成しません。駅前を歩けば「整体」や「ストレッチ」の看板は数多く目にするのに、「指圧治療院」はほとんど見かけない。この誰もが感じる素朴な疑問の裏には、指圧業界が直面する根深いブランディングの問題が隠されています。

小野田先生は、その原因を「指圧」という漢字の言葉が持つ古風なイメージにあると指摘します。現代の若者にとって、それは魅力的に映らず、選択肢にすら入らない可能性があるのです。

実は20年も前、小野田先生はこの問題を見抜き、「指圧プラクター(SHIATSUPRACTOR)」というモダンな名称を考案し、特許まで取得していました。しかし、当時の業界の保守的な体質に阻まれ、その革新的な試みが受け入れられることはありませんでした。素晴らしい技術を持ちながらも、その見せ方や伝え方を時代に合わせてアップデートしなければ、文化そのものが衰退していくかもしれない。これは、指圧業界全体への静かな、しかし重い警鐘です。

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5. 指圧の神様・浪越徳治郎は「筋膜療法」の先駆者だった

最後に、指圧の歴史認識そのものを覆すかもしれない、最も衝撃的な洞察をご紹介します。それは、指圧の創始者・浪越徳治郎先生の技術の真髄に関する、小野田先生ならではの喝破です。

一般的に、浪越指圧は「点で押す」技術の集大成と考えられています。しかし小野田先生は、徳治郎先生の施術は、実は現代でこそ注目される「筋膜」を捉える、流れのあるものだったと看破します。その根拠は、徳治郎先生の「指の大きさ」にありました。彼の指は非常に大きかったため、物理的に鋭い「点」で圧迫することは困難でした。そのため、自然と指を滑らせるような「流れ押し」となり、結果として、本人が意識せずとも半世紀も前から「筋膜療法」を実践していたというのです。

この事実は、本物の指圧師の姿をも問い直します。一部の指圧師は、指が変形するほどの「指作り」を誇りますが、小野田先生はそれを「ハンマー狂器(きょうき)」と呼びます。そのような硬い指は、凝りをさらに奥へと「逃がし」てしまうだけ。対照的に、徳治郎先生は柔らかい手でまず凝りを見つけ、それから圧をかけていたのです。この本質は、林理造先生のような一部の達人だけが受け継いでいると小野田先生は語ります。そこには、達人だけが見通せる、深く、豊かな世界が広がっているのです。

浪越徳次郎先生は指圧じゃないんです。筋膜、筋膜でやってるんです。… あの人は何やってるかというと指圧をやってるんだけど意外とこういう流れ押しをやって…もう半世紀前から筋膜療法やってる。

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結論:未来への問いかけ

施術を行う床から、その技術の定義そのものに至るまで、小野田茂先生の洞察は、指圧が単に守られるべき固定化された伝統ではなく、時代と人体の変化に寄り添い、絶えず進化し続けるダイナミックな実践であることを教えてくれます。

真の熟達とは、伝統を墨守することではなく、その本質を理解した上で、現代の現実に合わせて絶えず適応させていくことなのかもしれません。

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