保護中: 研究会アーカイブ「骨盤触診とカイロプラクティック的アプローチ入門」 講師:足達晃大

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「骨盤触診とカイロプラクティック的アプローチ入門」
 講師:足達晃大

本研究会では、仙腸関節、恥骨結合、股関節など骨盤に関連する主要な関節を中心に、解剖学的理解を踏まえた触診法を丁寧に学びました。さらに、骨盤の可動性を確認する Gapping Test やモーションパルペーションを実習形式で行い、歪みや機能制限を正確に捉える技術を養います。その過程で、単に「骨のズレ」として理解するのではなく、関節のわずかな動きや神経系との関係性に注目する、現代的なカイロプラクティックの視点を導入いたします。

神奈川県指圧師会 九月研究会報告
「骨盤触診とカイロプラクティック的アプローチ入門」講師:足達晃大

 9月の研究会では、指圧とカイロプラクティックを統合した臨床を行う足達さんより、「骨盤」に焦点を当てた講習が行われました。骨盤は脊柱と下肢からの荷重が交差する土台であり、歪みは全身へ連鎖して姿勢の崩れや可動域低下などを招きます。指圧治療において骨盤の状態把握は全身バランスの読解に直結し、適切な調整は回復促進と健康維持に資すると考えます。

■ フィクセーション(可動性減少関節)とは?

 『関節の機能的な不整合(わずかなズレや動きの異常)によって、神経系の働きに干渉が生じている状態』。

 静的な「骨のズレ」ではなく、運動学と神経機能の不調和という動的概念として理解します。結果として、感覚入力と中枢処理の変調、筋緊張や可動域の制限、微小損傷の蓄積による慢性炎症、代償的運動パターンの形成、恒常性と自然治癒力の低下が生じ得ます。

■ 仙腸関節の機能(関節の可動性)

仙腸関節は“ほとんど動かない”けど“確かに動く”関節。かつては「ほとんど動かない」と考えられていたが、近年の解剖学・バイオメカニクス研究では数ミリから数度の動きが確認されている。この“わずかな動き”が体幹の安定性・痛み・運動連鎖に大きく関係する(慢性痛の大きな原因になりやすい)

■ 触診の原則

触診は「静的触診」を基本とし、過度な圧を避けて掌や指腹を広く用います。強圧は筋の緊張を誘発し、判別を困難にいたします。まず広くふわっと接触し、必要最小限の圧で触診します。左右差を判断する際は、必ず左右で同一の解剖学的位置(たとえば腸骨稜の「最も高い点」同士)を比較してください。

■ 寛骨の触診

1. 腸骨稜:背側から両手で広く接触し、体表を下方へ滑らせると縁で指が「引っかかる」感覚が得られます。最も高い頂点を決定します。左右の頂点高の差は、寛骨の上下方向の偏位を示唆する重要所見となります。

2. 上後腸骨棘(PSIS):腸骨稜の後方端。仙腸関節上方に位置する突起です。掌で広く当ててから突起を拾い、正中に対する左右の距離や上下・内外の位置関係を確かめます。体型差として、一般に女性は骨盤横径が大きくPSIS間の幅も広くなりやすい点を念頭に置くと判別が安定します。

3. 上前腸骨棘(ASIS):骨盤前面の鋭い骨性突起です。掌で広く接触してから突起の頂点を特定し、左右の高さを比較します。

4. 坐骨結節:ハムストリングスの起始部です。皮膚と筋を軽くずらすように内外方向へ探索すると触知できます。

5. 大転子:大腿骨近位外側の明瞭な隆起。骨盤の所見に対し、大腿骨の相対位置を補助的に把握する目的で確認します。側方から掌で広く当て突出の位置を確かめます。

各ランドマークを一定の手順で触れたうえで、所見を統合して立体的に解釈いたします。たとえば、右の腸骨稜が左より高く、同側PSISが外側に位置し、右坐骨結節も高い場合、右寛骨が「上方・外方」に偏位している可能性が示唆されます。さらに仰臥位でASIS高が右優位で、徒手の下肢長評価でも右短縮が明瞭であれば、複数指標が同一方向に一致していると判断できます。

■ 仙骨の触診

1. L5:反り腰傾向の強い女性では腰椎前弯によりL5が触れにくい場合があり、その際は無理に同定する必要はありません。

2. S2レベル:まず上後腸骨棘(PSIS)を両側で確認します。掌全体をやさしく当て、骨性の突起としてPSISを拾い上げます。PSISから指一本分ほど斜め下、正中寄りの位置がS2レベルの目安になります。背側・腹側方向にどちらが高いかを比較します。

3. S4レベル:S2からさらに指一本分下がるとS4レベルの目安になります。仙骨の形態上、上部(S2側)は前方、下部(S4側)は相対的に後方に位置しやすいことを前提知識として持っておくと、触診所見の解釈に役立ちます。

4. 仙骨外側縁下角(Inferior Lateral Angle of Sacrum, ILA):仙骨の下外側に張り出す角の部分。頭側・尾側方向にどちらが高いかを比較します。

 S2レベル、S4レベル、仙骨外側縁下角の三点から得られる情報を統合し、仙骨の上下・前後・内外方向の歪みを立体的に評価します。たとえば、寛骨が右上がりかつ外側に開いている(右寛骨の上方偏位+外方偏位)場合、対応して仙骨が左側上方に見え、右の外側縁下角が相対的に高く触れる、といったねじれパターンが示唆される可能性があります。

■ Gapping Test(仙腸関節一般可動性検査)

 本検査は、仙腸関節の一般的な可動性を触覚的に評価し、左右いずれの関節に可動性の低下または亢進がみられるかを鑑別することを目的とします。可動性はごく小さく、微細な振動の伝達を丁寧に拾い分ける繊細さが求められます。

1. 腹臥位:被検者はうつ伏せの姿勢。

2. 頭方の四指でPSISコンタクト:検査側のPSISへ頭方の四指で軽く触れます。PSISのすぐ外側から関節裂隙側へ指腹をわずかに潜り込ませ、引っ掛けるように受けると微細な返りを拾いやすくなります。

3. 同側の膝関節を屈曲(90°以内)股関節を軽く内旋

4. 足方の手で足関節の内側をもつ:親指を踵、示指を内果に添えるとラインが取りやすくなります。

5. 股関節内旋していきロックがかかったら軽く揺らす:関節の遊びが「カチッ」と収束する感触が得られた位置がロック位です。ロックを保持したまま、下肢に小幅の揺動を与え、PSISに置いた獅子で仙腸関節の微細な動き(振動の返り)を感じ取ります。反対側も同一条件で実施し、左右差で判定します。

6. 動きが感じられたら正常、感じられなかったらフィクセーション(動きすぎの場合は可動性亢進の可能性)

 大きく揺らすと、股関節や膝の緩みで振動が吸収され、仙腸関節まで届きにくくなるので不適切です。狙いは小さく速い揺すりであり、頭側の手(PSIS側)に伝わる微細な振動の有無を丁寧に観察します。振動が明瞭に返ってくる場合は、「その側で動きが出ている」と判断します。感覚依存の要素が大きいため、同一条件(座位、屈曲角度、内旋量、揺動の振幅・テンポ)をそろえ、反対側も同様に実施して左右差で評価することが大切です。

■ まとめ

 研究会では、実際にフィクセーションを起している仙腸関節側の股関節屈筋の筋出力が低下していることを確認し、腰方形筋への指圧や仙腸関節モビライゼーションを行うことで腸腰筋の筋出力が改善していました。

 触診と各検査は、治療部位と方法を選ぶための“地図”として機能します。本講習で得た評価軸(静的触診、仙骨・寛骨ランドマーク、Gapping Test)を指圧施術に取り入れることで、施術の幅が広がり、全身の運動連鎖を整える可能性を感じました。

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