背側認知回路と腹側情動回路
▶ 背側認知回路 Dorsal cognitive circuit
脳内で主に注意の制御、作業記憶、意思決定、問題解決などの高次認知機能を担う回路
- dlPFC 背外側前頭前野
作業記憶や計画立案、問題解決に重要な役割を果たす。複数の情報を保持し操作することで、目標志向の行動を可能にする。 - dmPFC 背内側前頭前野
社会的認知や自己認識に関連し、他者の意図の理解や自己評価をサポートする。 - dCaud 背側尾状核
前頭前野と連携して目標指向の行動選択や動機づけを支え、学習や行動の強化にも関与する。 - tham 視床
感覚情報の中継地点として、認知的に重要な情報を前頭前野に伝えることで、注意の集中や認知制御に貢献する。
<臨床的意義>
背側認知回路の機能障害は、統合失調症、注意欠陥多動性障害(ADHD)、うつ病、双極性障害などの精神疾患に関連している。実行機能の低下や注意の制御の問題がよく見られ、日常生活や社会生活に影響を与える。
▶ 腹側情動回路 Ventral affective circuit
脳内で報酬処理や感情の調整に重要な役割を果たす神経回路
- OFC 眼窩前頭皮質
報酬評価、意思決定、感情調整に関与。異なる選択肢の価値を評価し、感情的な価値判断に基づく行動の選択を行う。 - Nacc 側坐核
報酬予測と快楽の経験に関与し、行動の動機づけや強化学習に重要。ドーパミンの作用を受け、報酬に対する感受性を調整する。 - Amy 扁桃体
特に恐怖や不安などのネガティブな感情処理に関与。感情的な記憶を保持し、状況に応じた感情反応を生成する。 - tham 視床
感覚情報を中継し、報酬処理に必要な情報を大脳皮質に伝える役割を果たす。
<臨床的意義>
腹側情動回路の機能不全は、うつ病、双極性障害、依存症、不安障害などの精神疾患に関連している。報酬に対する感受性の異常により喜びを感じなくなったり、何かを止められなくなったりなど感情調整の困難が見られる。
前頭辺縁回路
▶ 前頭辺縁回路 Fronto-Limbic Circuit
<前頭辺縁回路の役割と機能>
感情の生成と評価: 扁桃体で生成された感情的な反応を、前頭前野(vlPFCやOFC)が評価し、状況に適した感情的な行動を導く。
感情の調整と抑制: ACCとvlPFCが扁桃体からの感情的な衝動を抑制し、特に不安や恐怖の過剰な反応を制御する。
記憶と情動の統合: 海馬と扁桃体の連携により、過去の感情的な経験を基にして現在の状況に適した反応が可能となる。
- vlPFC 腹外側前頭前野
扁桃体から受け取った感情的な情報を評価し、適切な行動選択や反応を行うために、感情の制御を行う。 - OFC 眼窩前頭皮質
報酬や罰を評価し、情動的な価値判断を行う。OFCは、他の前頭前野領域や扁桃体と協力して、感情的な刺激に基づいた意思決定を支えている。 - ACC 前帯状皮質
扁桃体からの感情的な反応をモニタリングし、状況に応じて適切な制御を行う。ACCは感情的な課題の処理において、注意の集中や動機づけに関与する。 - Amy 扁桃体
特に恐怖や不安などのネガティブな感情の生成と処理に関与。感情的な反応を生成し、その反応が適切であるかどうかを評価する。 - Hippocampus 海馬
記憶の形成、特に感情的な出来事や空間的な文脈に関連する記憶に関与。扁桃体と連携して、過去の経験に基づいた感情的な反応を導く。
※ 前頭辺縁回路は、情動と認知の統合を行い、感情的な反応とその調整を支える脳のネットワーク。前頭前野(Prefrontal Cortex)と辺縁系(Limbic System)の複数の領域が相互に接続されている。
<臨床的意義>
前頭辺縁回路の機能障害は、うつ病、双極性障害、不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などに関連している。これらの疾患では、感情制御の困難や、感情的な刺激に対する過剰な反応が見られます。認知行動療法により認知の再構築や行動変容を通じて、前頭前野、ACC、扁桃体などの脳領域を調整し、適応的な思考や行動パターンを確立されることで、前頭辺縁回路の機能障害が改善される可能性がある。
認知行動療法の機序
1. 認知の再構築: CBTは、患者のネガティブな思考を現実的で適応的なものに置き換え、前頭前野やACCの認知制御ネットワークを活性化して感情の調整を促進します。これにより、ストレスや不安が軽減されます。
2. 行動活性化と曝露療法: 患者が回避していた活動に取り組み、不安の原因に触れることで、ポジティブな体験を積み重ね、扁桃体の過剰反応を減少させます。ACCと前頭前野が感情制御をサポートし、行動変容と症状の改善が期待されます。
3. メタ認知の向上: 自分の思考や感情を客観的に見つめ、調整するスキルを養うことで、DLPFCや頭頂連合野が活性化され、柔軟な感情と行動調整が可能になります。
4. 神経可塑性の促進: 新しい認知・行動パターンの習得を通じて神経回路が再編成され、前頭前野と辺縁系の接続が強化されます。これにより、不安やストレス反応の適応的な変化がもたらされ、長期的な改善が期待されます。
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